今や日本のゴルフ界を牽引する存在となった、石川遼選手と松山英樹選手だが、往年のスター・ジャンボ尾崎には「圧倒的に」劣る部分があるという。そう指摘するのはプロゴルファーの丸山茂樹氏だ。

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 やりましたね! 松山英樹がカシオワールドオープン(11月28日~12月1日、高知) で今季4勝目を挙げ、ツアー1年目で賞金王に輝きました。もちろん、史上初の快挙です。

 昨季の米PGAツアーにスポット参戦して賞金シードを獲得し、米ツアー本格参戦をしながらの日本の賞金王。立派というしかありません。しかも史上3人目の2億円突破ですからね。

 さて、僕は一度も日本の賞金王になれませんでした。その座に最も近づいたのが、1997年。自身最多の4勝を挙げたのですが、1807万円差の2位でした。当然1位はジャンボこと、尾崎将司さんですよ。いやあ、ほんとに高すぎる壁でした。ちなみに、「史上初の賞金2億円」はジャンボさんです。

 ぶっちゃけた話、80~90年代の賞金王といまの賞金王を比べたら、昔の方が価値があるでしょう。いまは選手層が厚くなったと言われますけど、中間層が厚くなっただけで、上位はそんなに厚くない。あのころはジャンボさんがいて、(尾崎)直道さんがいて、中嶋(常幸)さんがいて、僕がいて。ほかに外国人選手や、その年ブレークした人なんかで年間20勝ぐらいしちゃう訳です。常にツアーの3分の2ぐらいの優勝をかっさらっていく。

 英樹は年間4勝でしょ? それで2位と7727万円(12月6日現在)も差がつくんですから。今季の試合数はツアー史上最少の国内23試合。もう、走っちゃったモン勝ちみたいなところがある。

 試合数が多ければ、優勝しなくても賞金王になるケースが出てくる。米ツアーのトム・カイトみたいに。一シーズン通じて安定した試合を、しかもケガをせずに続けた証明ですよね。賞金王にはそういう面白さもあるはずなんですけど、現在の日本ツアーでは、そうはいかないんですね。

 

 ジャンボさんの強さは、ボクシングでいえばパンチが届かない感じです。こっちだけキックもOKというルールなら戦えるかな、という。年間18試合ぐらいしか出なくても、8回ぐらい優勝しちゃう。それ以外も2位が5回で残りもトップ10、とかね。どこまで強いんだ、って。そこまでの強さが松山英樹や石川遼にあるかといえば、いまはないでしょうね。

 ジャンボさんの強さの源は、圧倒的な小技のうまさにあると思います。長い距離を打つ能力は、英樹も遼もジャンボさんに負けていない。でもアプローチ・パターのうまさとか、勝負どころのショットの精度っていうのは、圧倒的にジャンボさんが上。当時から現在の素晴らしい道具でやってたら、ジャンボさんはタイガー・ウッズに肩を並べられる唯一の人だったんじゃないかと思います。

 そこで僕は思ったんです。「このまま日本にいちゃダメだ」って。ツアー通算94勝のジャンボさんを超えたいと思っても無理。海外に出るしかない、と。だから米ツアー参戦もスッと決断できた。丸山茂樹の名を残すには、ジャンボさんが敬遠していた米ツアーで頑張るしかなかったんです。だから米ツアー初優勝のとき、こう言いました。

「『尾崎将司は日本ツアーのお山の大将』と言われたのを覆せた」

 日本育ちでも、アメリカで通用すると証明できた瞬間でした。僕の勲章です。

週刊朝日  2013年12月20日号