12月5日、ついに特定秘密保護法案が採決された。今後、監視機関の設立などが始まる予定だが、以前から反対を表明していたジャーナリストの田原総一朗氏は、日本で独立した監視機関を作ることは難しいと指摘する。
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自民・公明両党は12月5日、参議院国家安全保障特別委員会で特定秘密保護法案の採決を強行した。衆院は20日ほどの審議で11月26日に採決をし、参院特別委での審議はなんと8日ほどでしかなかった。
先週も反省を込めて記したが、メディアの報じ方のまずさもあり、多くの国民が秘密保護法案に関心を示さなかった。ようやく反対運動が盛り上がりを示し始めたのは、衆院での採決直前になってからであった。
おそらく自民・公明の与党は、国民が秘密保護法案の何たるかを知れば大きな反対運動になると承知していて、だからこそ衆参両院での採決を急ぎに急いだのである。
それにしても、この法案の最大の問題は、具体的に特定秘密を監視し、チェックする機関がないことだ。
前にも記したが、アメリカでは、国立公文書館の情報保全監察局に強大な監査権限が与えられている。行政機関内部者による異議申し立てや省庁間上訴委員会の仕組みも整っているし、憲法修正1条に記された言論、報道の自由の精神が根付いている。二重にも三重にも独立した監視機関がつくられているのである。
安倍晋三首相は12月4日、参院での採決ぎりぎりになって、新たな監視組織の設置について言及した。
まず、有識者による「情報保全諮問会議」を設ける。さらに省庁の事務次官級を中核とする「保全監視委員会」を設ける。また、政府内に公文書の廃棄を判断する「独立公文書管理監」のポストをつくるというのである(いずれも仮称)。
だが、有識者による「情報保全諮間会議」は、特定秘密の指定が適切に実施されているかを個別具体的にチェックする組織ではない。あくまで基準づくりに関与するだけで、第三者的なチェック機関とはいえない。
具体的に特定秘密の指定をチェックする機関は「保全監視委員会」のはずだ。この委員会は、各行政機関の指定解除の状況や、特定秘密取扱者の適性を調査する「適性評価」の実施状況を首相に報告することになっている。
だが、この「保全監視委員会」は内閣官房に置かれ、しかも省庁の事務次官級が中核になるというのである。文字どおり政府の中枢であり、独立した第三者機関というのはとても無理ではないのか。あるいは、当事者たちには独立した第三者機関の意味がわかっていないのではないか。
話がいささか飛躍するが、どうもこの国は、独立した第三者機関というものをつくるのが下手というか、そういう発想に欠けているのではないかとさえ思える。
例えば原発の世界で、原発を規制する組織として「原子力安全・保安院」があった。原発が安全に運転されているかどうかを監視する機関だ。ところが「安全・保安院」は、何と経済産業省の内部にあったのである。
経産省は、原発を推進する省庁だ。その内部に「安全・保安院」があった。つまり原発のアクセル役とブレーキ役が同居していたわけだ。
そのことが問題になったのは2011年3月11日、福島第一原発の事故が起きてからだった。1960年代に原発が稼働して以来、誰も改善できなかったのである。現在では、原発は「原子力ムラ」という政・官・業なれあいの世界だったと批判されている。独立性の欠如した「ムラ」は、農業、医療、教育など、この国のほとんどの業界に見られる現象なのである。
※週刊朝日 2013年12月20日号