年内の合意をめざすTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉が佳境を迎えた。自民党は当初、農産物の「重要5項目」を守ると言い続けてきたが、最近は譲歩しそうな雰囲気も漂う。この「聖域」の関税がなくなっても、農業は大丈夫なのか。日本にどんな影響を及ぼすのか。「聖域」をすべて守った場合と、すべて関税ゼロになった場合について、関西大学の高増明教授(国際経済学)に試算をしてもらった。
最も衝撃的だったのは、関税をゼロにすると、生産額で「コメ」が77.76%減、「小麦」も76.42%減となることだ。主食の「壊滅」と言えよう。コメで見れば、いま関税は最大で778%かかっている。これがゼロになってしまっては、人件費が割安な新興国や、農地が広く機械化が進んだ米国などからの低価格の輸入米と互角に渡り合うのは難しいだろう。その証拠に、試算では米国のコメ生産額が2倍以上に増えた。
その半面、「聖域」をすべて守れば、日本の農林水産業が受ける負の影響は微々たるものになる。最大でも「その他農産物」のマイナス1.92%だ。米国の変化も小さい。
そして、政府の試算だ。たとえばコメの減少率について比べると、政府はマイナス32%として、悪影響は高増教授の半分以下だと見ていることがわかる。逆に、小麦などその他の項目は政府試算のほうが悪い結果を予測する。
この違いは、高増教授が貿易の分析で一般的に使われるデータを用いたのに対し、政府試算の「農林水産物」は、農林水産省が算出した独自の減少額を計算式に組み込んでいるからだ。ともあれ、日本の農業は、規模拡大などでTPPに耐えられるようになるのか。東京大学大学院の鈴木宣弘教授(農業経済学)はこう予測する。
「コメ、小麦、サトウキビなどは土地の広さが値段に直結します。日本で最も強い生産力を持つ北海道で40ヘクタールの畑作をしても、1万ヘクタールの西オーストラリアと関税ゼロで競争しては、勝ち目はありません」
※週刊朝日 2013年11月8日号