喫煙者だったという池田清彦・早稲田大学教授は無煙たばこの登場を歓迎しているというが、揚げ足を取るような提言をしたある団体に苦言を呈する。

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 JTが禁煙たばこ「スヌース」の販売を始めたようだ。私は今はたばこを吸わないけれど、20歳代の頃は日に80本も吸っていたので喫煙者には寛容である。私自身は隣でたばこを吸う人がいても気にならないが、世の中にはたばこの煙が嫌いな人もいるので、分煙はした方がいいと思う。無煙たばこは分煙の必要がないので、いいアイデアだ。でもきっと難癖をつける奴がいるだろうなと思っていたら、やっぱりいた。日本学術学会が、無煙たばこは口腔がんや揮発成分による受動喫煙のおそれがあるとの緊急提言を公表したという。「浜の真砂は尽きるとも世にアホの種は尽きまじ」を地で行くような話である。

 私の学生時代の友人に極端にアルコールに敏感な男がいて、自分で酒を飲まなくても酒席にいるだけで顔がほんのりと赤くなった。世の中には、酒のにおいを嗅いだだけで具合が悪くなる人もいることは確かだから、日本学術会議は、酒には揮発成分が含まれているので受動飲酒のおそれがあるとの提言も同時に行ったらどうかしら。ついでに、私は満員電車の中で化粧がきつい女の人が隣にいると気持ち悪くなるので、受動化粧禁止の提言も行ってもらいたい(冗談だよ)。

 それにしても、最近の日本は「健康」「安全」「環境」という錦の御旗を振りかざして他人の楽しみを邪魔する人が増えてきたような気がする。他人の楽しみを邪魔するのだけが楽しみってどんな人生なんだろうね。他にやることがないのかしら。可哀想な人たちだ。

 どんな行為もメリットとデメリットがある。たばこもデメリットばかりでメリットが全くなければ、愛好者がこんなに沢山いるはずがない。エレベストに登るのはたばこを吸うよりはるかに命を危険に晒す行為である。しかし、命を懸けてもエレベストに登りたい人に登るなという権利は誰にもない。たばこが健康に悪いと思えば、自分だけ吸わなければ、それでよいではないか。何で他人の行為にまでよけいなおせっかいを焼くのかしら。人には愚行権があって、他人の自由を侵害しない限り、傍から見てどんなにくだらない行為でも、本人が楽しければ何の問題もないのだ。はっきり言って一番体に悪いのは、たばこを吸うことでも酒を飲むことでもなく年を取ることだ。いずれ人は死ぬのだから、どう生きようと本人の勝手だ。

 日本学術会議も国民の健康を心配するのであれば、福島第一原発の放射能汚染水の垂れ流しを止める方途について、政府に緊急提言したらどうですか。こっちの方がよほど緊急だろうに。

週刊朝日  2013年9月27日号