ロンドンはバッキンガム宮殿、北京は紫禁城、パリは凱旋門。世界の都市には、必ずその国の歴史や文化を代表する建造物がある。しかし、東京には……。
「だからこそ、江戸城を再建したいのです!」こう力説するのは認定NPO法人江戸城天守を再建する会理事長の小竹直隆氏。
「2020年、東京五輪には内外から約1千万人が来訪するといわれています。ですが、東京には日本の歴史や文化を誇る建造物がない。今こそ、日本一壮大で美しい城だった江戸城天守を再建する好機です」
小竹氏は、JTB専務を経て、東京観光財団専務理事を務めた。東京を売り込むために世界中を飛び回ったが、そのたびに東京には歴史的ランドマークがないことを痛感したという。
「東京が世界に誇る観光都市になるためにも、江戸城再建は必要です」(小竹氏)
江戸城再建に期待する人は政界にもいる。松沢成文参院議員は、12年、東京都知事選に立候補した際の公約として、江戸城天守再建を掲げた。また、昨年8月に行われたNPO法人との政策意見交換会では、谷垣禎一前自民党総裁も強い関心を示したとされている。
では、どこに、いくらかけて再建するか。
場所は、一般公開されている皇居東御苑の一角を想定している。今も天守の台座だけが残っているからだ。江戸城天守は、1657年に「明暦の大火」で焼失。その後、加賀藩の前田家によって台座は修復されたが、幕府の経済的理由により天守は再建されなかったという経緯がある。
再建費用は、総木造で忠実に復元すると400億~500億円かかる。12年に約500億円をかけて復元された東京駅と同じ規模だ。費用は協賛企業や個人から寄付金を募る。
巨費を投じることに批判もある。だが、年間151万人が訪れる観光スポットとなった大阪城も、1931年に復元されたもの。年間来場者147万人の名古屋城も戦後に復元されている。江戸城は、これをはるかに上回る効果が期待される。作家で『江戸城を歩く』などの著書のある黒田涼さんはこう語る。
「経済面だけではなく、精神面での効果もあります。各地のお城は、全国で郷土の誇りになっています。首都・東京の江戸城天守は、日本人の誇りと精神性のシンボルとなりえます」
江戸城で外国人をおもてなし。2020年、それは現実になるかもしれない。
※週刊朝日 2013年9月27日号