「本命なき戦い」と評された今回の招致レース。わずかな減点が命取りといわれるなか、隣国の韓国、中国からは「嫌がらせ」と疑いたくなる報道が相次いだ。
まずは、韓国メディア。9月初旬、中央日報が社説で〈期限内に汚染水問題を解決できなければ五輪招致を自主的に放棄〉するようにと持論を展開。9月6日には韓国政府が、福島県など8県からの水産物輸入を全面禁止すると発表した。
これらの報道に、一部の日本人がインターネット掲示板やツイッターで激しく反論。開催が決まった8日には、韓国料理店が並ぶ新大久保で「ヘイトスピーチ」を行うデモ隊と、それに対抗するグループが激しく対立し、逮捕者まで出る騒ぎとなった。
中国では中央テレビが「東京落選」、新華社通信が「イスタンブールに決定」と誤報を連発。「東京が落選してほしいから先走ったのではないか」などの意見がネット上に渦巻いた。
だが、在韓20年のライター・伊東順子さんはこの状況を冷静に分析する。「韓国は放射能汚染に強い危機感があり、原発事故以降、徹底して日本産の水産物を避けています。それでも、韓国の食品関連企業が産地を偽装して日本産を販売する事件が後を絶たない。今回は純粋に国民の不安を解消するために、全面輸入禁止措置が取られたのでしょう。東京開催を邪魔する思惑はなかったはずです」。
伊東さんによると、東京開催決定後の現地報道は「淡々としたもの」だったという。政府の対応もしかり。9日には、韓国五輪委員会の金正幸会長と日本五輪委員会の竹田恒和会長が会談。18年の平昌(ビョンチャン)冬季五輪、20年夏の東京五輪と続く、アジア初となる2期連続五輪開催の成功を目指し、全面的に協力することを確認している。
一方、中国はどうか。中国に詳しいジャーナリストの富坂聰氏は「誤報は単なるミス」と断言。むしろ、日本を毛嫌いする「環球時報」が社説で、東京五輪決定を「歓迎」と書いたことが驚きだという。
「中国は領土問題や歴史認識では徹底的に戦う姿勢を見せる一方、経済ではWin‐Winの関係でありたいと思っている。五輪特需で日本経済が活性化することは、中国にとって好ましいことなのです」(富坂氏)
幽霊の正体見たり枯れ尾花。日本人には、五輪開催国の栄誉に恥じぬ、冷静な対応が求められる。
※週刊朝日 2013年9月27日号