1970年代、卵巣がんにかかる日本人女性は世界で最も少なかった。それが昨今、急激に増えている。その背景に、「子宮内膜症の一種で、卵巣内に子宮内膜が増殖してチョコレート状になる『チョコレート嚢胞(のうほう)』が関係している」と話すのは筑波大学病院産婦人科教授の吉川裕之医師だ。
「卵巣がんはタイプによって漿液性(しょうえきせい)腺がん、類内膜(るいないまく)腺がん、明細胞(めいさいぼう)腺がん、粘液性腺がんの四つに分類されます。このうち日本人に多いのが明細胞腺がん。これはとくにチョコレート嚢胞が発生に関わっていると考えられています」
日本人にチョコレート嚢胞が多い理由は、諸外国との比較研究がないためわかっていない。だが、この病気は経口避妊薬(低用量ピル)の服用で予防できるうえ、分娩の回数が多くなるほどかかりにくいことが知られている。日本ではピルの服用者が少なく、出産年齢が遅い。出産回数が少なかったり出産経験がなかったりする女性も増えている。そのため、チョコレート嚢胞などの子宮内膜症が増加し、結果的に卵巣がんも増えている可能性が高い。
吉川医師は過去に行った研究で、チョコレート嚢胞が腫瘍と似た性格を持っていることを示した。
「卵巣がんが見つかった時点から半年前の超音波検査の画像を調べると、多くの場合は正常ですが、明細胞腺がんだけはチョコレート嚢胞などが存在していたという報告もあります。一般的に卵巣がんは検診による発見がむずかしいのですが、子宮内膜症の人は、ある程度、卵巣がんの予測が可能です」(吉川医師)
月経痛などがある人はまずは受診し、子宮内膜症があったらピルなどで治療すること。そして治療後も定期的に経過観察をすることが大切、ということだ。
※週刊朝日 2013年9月20日号