上海在住のライター・杜丘由宇氏によると、中国の有力メディアが報じた2011年から13年に中国で発生した食品汚染事件は50件以上にも上るという。しかし、それは氷山の一角に過ぎない。この事態に、日本はどう対応していけばいいだろうか。
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食品汚染事件を起こす大企業への消費者の失望は高まるばかりだ。著名な経済ジャーナリスト、呉暁波氏は「中国は“犯罪コスト”が低すぎる」と大企業の犯罪が後を絶たない理由を分析。乳製品による集団食中毒事件などが原因で大問題になった日本の雪印乳業の例を引き合いに、メラミン事件を起こした後も何事もなかったような中国乳業メーカーを非難する。
ただ、行政側も手をこまぬいているわけではない。11~13年起こった50の事件についても、そのつど、逮捕者が出て重罪となっているほか、工場閉鎖や巨額の罰金を科せられている。近年は市民の関心の高まりを受け、罰金が高額になり、重罪になる傾向がある。
このように、中国の食品汚染の問題は、社会の仕組みや貧困、国民の考え方と密接に関係している。食品問題だけを取り上げるのではなく、社会構造そのものに真剣に取り組まない限り、今後も新たな汚染事件が発生していくだろう。
では、食料の多くを中国に依存する日本はどうすればいいのか。中国産の全量検査を実施できていない現在、中国で発生しているような食品汚染による被害が日本に及ばないという保証はない。「水際作戦」は限度がある。日本はまず中国の食品汚染の実態を直視し、対策を冷静に議論すべきだろう。
一方で、現在日本では食品汚染を材料に中国をバッシングする動きが盛んだが、忘れてはならないのは、中国の一般庶民もこの問題の被害者であるということだ。同じ「消費者」として、中国の被害者に思いをはせる余裕がほしいところだ。
在上海17年の漢方医、藤田康介氏はいう。「中国の食品汚染問題はここ10年のこと。中国はこれまで直面したことのないさまざまな事態に直面しているのです」
日本は中国の現実を拒絶するだけでなく、食品添加物などの問題を克服してきた先進国として、その問題の解決に知恵を絞ることはできないだろうか。それが、結果的には、自国民の利益につながっていくのだから。
※週刊朝日 2013年9月20日号