五輪招致に成功し、浮かれに浮かれているニッポン列島。しかし、ちょっと待ってほしい! ニッポンはいま、問題が山積みだ。
神戸女学院大名誉教授の内田樹(たつる)氏が力説する。「現在、日本ができる最大の国際貢献は、五輪の開催ではありません。世界中が注目する大災害となった福島第一原発の汚染水問題を、世界中の英知を集めて一刻も早く解決することです」。
世界の海に放射能をまき散らし、まともな対応ひとつできないニッポン。そんな国に五輪を招く資格はない、と憤るのはジャーナリストの斎藤貴男氏だ。「ブエノスアイレスでの記者会見で、『東京は福島から遠いので安全だ』と胸を張り、身内以外の報道陣から笑い物にされたのもむべなるかな。それでも本気の挙国一致態勢が恐ろしい」。
安倍首相は最終プレゼンで、「状況はコントロールされている。決して東京にダメージを与えるようなことを許したりはしない」と、自信に満ちた口調で断言した。だが、8月には貯水タンクからの高濃度の汚染水漏れが発覚し、「レベル3」の事故と認定されたばかり。コントロールどころか、実際は「制御不能」ではないのか。
また、汚染水について「原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされている」と強調したことも引っかかる。港湾口には放射性物質の拡散を防ぐ水中カーテン「シルトフェンス」が張られているが、専門家は水溶性の放射性物質の移動は防げないと指摘しているのだ。
首相の発言が“ハッタリ”だったとしたら、今後、国際社会から強い批判にさらされることになる。
東日本大震災からの復興を掲げて招致にいそしんだ人々の中には、別の思惑を持った者もいたようだ。「『復興五輪』をでっち上げた出陣式に、『原発バンザイ』の経団連会長が出張って、気勢まで上げてしまう無神経さは、尋常ではありませんでした」(斎藤氏)。
一方で前回の東京五輪はまさに戦後を乗り越え、日本人としての誇りや自信を取り戻すきっかけとなった。「焼け野原から20年で立ち直り、平和な国に生まれ変わった日本を世界に見てほしい、という素朴な情念があった。いまのように『経済のカンフル剤になればいい』などと公言する人はいませんでした。日本人は、いつからこんなに卑しくなったのか」(前出の内田氏)。
評論家の大宅映子氏は、地方都市が舞台なら、日本での開催にも賛成という。「本当に必要なことは、地方経済を元気にし、日本経済を盛り上げていくこと。成熟都市の東京よりも、伸びしろのある地方での開催のほうが、さまざまな可能性を見いだせたのでは」。
地震大国ニッポンでの開催を危惧するのは、防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏だ。「日本列島はいま、地震活動の活発期。開催までの7年間に大地震が起こってもおかしくはない。最悪、開催中に大地震に見舞われることも想定しなければ」。
渡辺氏によると、869年に起きた「貞観(じょうがん)地震」は、東日本大震災とほぼ同じ規模、同じ震源地だった。その9年後に関東大震災クラスの「相模・武蔵地震」が発生した。「貞観地震と東日本大震災の関連性から言って、その9年後、すなわち2020年に大地震が起きることも考えられます」(渡辺氏)。
環境破壊への懸念もある。「葛西臨海公園の西側半分がカヌー競技の会場として整備されます。同公園は東京湾に面し、面積が東京ドーム17個分と広大で、多様な生態系が形成されています。予定地に限っても鳥類76種、昆虫140種、樹木91種、野草132種が確認されているんですが……」(日本野鳥の会東京)。
※週刊朝日 2013年9月20日号