4月から全国の医療施設で臨床研究として始まった新型出生前診断は、各施設に予約が殺到し、海外で検査を受けようとする女性もいるほどだ。だが、その裏では検査をめぐって悩みを抱える人たちもいる。

 37歳でこの5月に妊娠が判明した有紀子さん(仮名)は、実母から、「頼むから検査を受けて」と泣きつかれた。有紀子さんの親族には、ダウン症の女の子がいる。生まれる子どもに異常があった場合に、相手の家に申し訳ないというのだ。

 有紀子さんの夫は医者で西日本にある実家も代々開業医だ。結婚式の際も、夫の親族は、「みっともない」から、ダウン症の子を出席させるなと口にしたこともあった。実母はそれを気にかけていたのだろうが、有紀子さんは、検査は受けないと実母に伝えた。

 聖路加看護大学で、遺伝看護学を専門とする有森直子教授は、家族や周囲の人間が、女性に検査を受けるように促す圧力は、新型検査導入のはるか前から存在した、と指摘する。「ダウン症候群の子どもが生まれたときに、どうしても女性側の家族が負い目を持つ感覚はぬぐえません」。

 女性の年齢が高いから、出生前診断を受けるという前提が常態化しているが、ダウン症の染色体異常は、男性側にも原因があるとの報告もある。原因は明確には判明していないという。それでも有紀子さんは、「これでダウン症の子どもが生まれたら、周囲にどんな言葉で責められるのか」と不安をぬぐえない。

「そうした女性がダウン症候群の子どもを授かった場合、負い目と責任をひとりで背負い込んでしまいます。遺伝カウンセリングでは、そう考えないよう伝えています」(有森教授)

 ほかにも、「新型検査ブーム」の裏で、深い傷を負っている人たちがいる。日本ダウン症協会の代表理事を務める玉井邦夫大正大学教授は、ここ最近、聞こえてきた声に驚いた。

 ダウン症の妹を持つ高校生の姉は、不安げなメールを送ってきた。「妹とテレビを見ていたら、新型検査の番組が流れた。そうしたら妹は、黙って部屋に戻ってしまったんです。妹が心配です」。

 ダウン症の6歳の子どもが、母親にこう聞いたという。「これ僕のこと? 何かいけないことしたの」。

 ある母親のところに、親類が電話をかけてきた。「(ダウン症の)○○ちゃんは、福祉のサービスが使えなくなるんじゃない」。

 つまり、この親類は新型検査の開始は、社会がダウン症の子は「不要」な存在だと認めたという意味だと、思い違いをしたのだ。

週刊朝日 2013年7月12日号

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