新潟県佐渡市では11月末以降、計5隻6遺体が漂着。石川県輪島市沖では計5隻4遺体が見つかった。北朝鮮から漂流してきたとみられるこれらの船は、いずれも木造。イカ釣り用の漁具などを積んでおり、多くは食料不足を補おうと漁に出た漁船のようだ。

 ところが、1隻だけ異質な“不審船”が12月11日、島根県隠岐の島町沖で船員4人とともに発見された。長さ約20メートル、幅約5メートル。金属製で船体中央に操舵室(そうだしつ)があり、長距離無線用と思われるアンテナや青いパトランプまで装備するなど、明らかに他と違う特徴を備えていたのだ。
 
 船は報道陣に公開されず、ブルーシートがかけられたまま解体業者に引き渡される予定だというが、週刊朝日は解体前の姿を独占入手した。北朝鮮事情に詳しい山梨学院大の宮塚利雄教授がこう分析する。

「見たことがないタイプだ。これまでの漂流船は小型ボートのような木造の漁船ばかりだったが、この船は立派な操舵室がある。中朝国境の鴨緑江に浮かぶ警備艇に似ている」

 週刊朝日が別ルートで入手した中朝国境の、軍が管理する船の写真と比較しても、操舵室上部に「金正恩同志を死守しよう」とスローガンが書かれている点など、特徴が酷似していた。

 海上保安庁の関係者によると、船員らは、「魚の運搬船だ。11月末、試験航海中にエンジンが壊れた」と主張。確かに船内には魚を入れるかごが複数あったが、漁具や魚は見つからなかった。船員らは、「エンジンを修理して、国に帰りたい」としきりに訴えたが、寒波が続いていることなどから海保が説得。12月19日、船の所有権を放棄して空路で中国・大連に向かい、帰国の途についたという。

 謎を残したまま去った彼らの正体は何だったのか。宮塚教授はこう語る。

「北朝鮮では、海が荒れるこの季節は沿岸漁業が主。この船は漁船の監視や他の船との取引など、何らかの任務を帯びて洋上に出ていた軍関係の船だった可能性がある」

週刊朝日 2013年1月4・11日号