ジャーナリストで参院議員の有田芳生氏(60)が10月23日から5日間、平壌を訪問し、終戦前後に北朝鮮で亡くなった日本人の遺骨問題で墓地などを視察した。これが拉致問題解決の突破口になるのか。

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 金正恩新体制と日本との間で、4年ぶりに外交交渉が行われようとしている。その“入り口”が、双方ともに人道問題として位置づけている「日本人遺骨収容」と「墓参」の問題だ。今回の私の単独訪朝は、この課題の現地調査をすることが目的だった。

 敗戦当時の北朝鮮には、最大時で約75万人の日本人(民間人と軍人)がいた。1945年8月9日にソ連が参戦したため、旧満州から逃げてきた人たちも含め、多くの日本人が、封鎖された北緯38度線を越えることができなかった。

 祖国に戻ることがかなわず、亡くなった日本人は約3万4600人。残された遺骨は約2万1千柱。厚生労働省社会・援護局によれば、北朝鮮には71カ所の日本人墓地があるという。その遺骨収容と墓参の実現を求めて「北遺族連絡会」が結成されたのは10月18日だ。

 地元では「早く収容してくれないと捨ててしまう」という声が根強い。「遺骨が出てくるとよくないことが起きる」との言い伝えがあるからだ。日朝間で交渉を進め、日本人遺骨を収容・管理し、慰霊碑などを速やかに造ることが現実的な解決策だろう。

 米国は1990年代に、朝鮮戦争で行方不明になった米兵を捜索するため、一人当たり約500万円を北朝鮮政府に支払った。そうした事例を踏まえ、日本人遺骨収容問題でも北朝鮮は高額な対価を求めてくるだろうと見る専門家は少なくない。しかし、北朝鮮政府は、日本人遺骨収容は人道問題なので対価を求めない方針だという。それが事実ならば、金正恩体制が日本に対して新しいアプローチを取ろうとしていることの証左と見ることもできる。

週刊朝日 2012年11月16日号