解剖学者の養老孟司さん(74)と生物学者の池田清彦さん(65)が対談を行った。その中で、養老さんは現代の日本には「参勤交代」が必要だと主張する。
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養老:大宅壮一はテレビができたとき「一億総白痴化」と言ったけれど、それは間違いだった。「一億総インテリ化」。いまは僕が若いころに言われたインテリの欠点が全部出ている。「口だけ」。ネットで人の悪口を書いている連中のテキストの文末に書き込みたい。「あんたら、今日、体を動かしてどのくらい働いたの?」と(笑)。
池田:昔は自分たちで家を建て、井戸を掘り、薪を取ってきて、食べ物を作った。鷲田清一も言っているけれど、全部インフラをお上、国と大企業に任せちゃったのが「近代化」だよね。
養老:エネルギーが限られてくると、元手になるのは自然と人間の体しかない。その体が一番快適になれるのは自然の中なんです。僕がずっと主張しているのは、2住居制を認める「参勤交代」です。都会の人は田舎へ行き、田舎の人は都会へ。贅沢からではなく、災害時の備えも考えてのことです。田舎には空き家がいっぱいあるんだから。
池田:過疎と高齢化で空き家はどんどん増えている。
養老:サラリーマンも2、3カ月の長期休暇をとれる制度にする。この不景気に何言ってんだと言われるけれど、政治家だって選挙区と東京を往復しなきゃいけないから、本音ではそうしたいと思っているはずだよ。都市は背後によほど立派な田舎がない限り、必ず滅びる。あのローマ帝国だって滅びたんだから。結局、再生産ができなくなる。だれがコメを作るのか。頭だけで考えてもわかる話です。
池田:だから日本の食料自給率はどんどん落ちてきた。
養老:1955年に第1次産業従事者は40%だったのが、いまは3.8%しかない。
※週刊朝日 2012年10月19日号