料理研究家の行正り香氏は、気持ちが落ちこんでしまったとき、大切なのは心の揺れを元に戻し、平常心を保つことだとしている。心を揺らさないために、期待値を最低レベルに下げることで乗り越えてみてはと提案する。
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「揺れない心をつくる」というのは大切です。誰しも、人から言われたひとことや、自分が言ったひとことに揺れたり、仕事の小さな失敗に揺れたり、大切な人が病気になったり、未来が不安になったりして、心が揺れます。そうなると、胃袋も激しく揺さぶられるようで、食欲もなくなります。がっくりきてしまったら、元に戻すのは大変です。
私は、会社員時代も会社を辞めてからも、たくさんの「心の揺れ」に遭遇し、きりきりした気持ちになり、膝を抱え込んで暗い布団の中で消えてしまいたい気分になったものです。こういうときは食欲がなくなるので、お酒ばかり飲んで解決しようと思いますが、そうなると、悪循環のループに入ってしまい、戻ってくることができません。
そこで、私は期待値を最低レベルまで引き下げることにしました。仕事で失敗しても、何か言われても、思わぬことが起きても、「いやいや、まだちゃんと生きている。やり直しだってできる。悪いことを考えても、得することは何もない」と思うのです。こうなるまでに、かなりの失敗を繰り返し、苦しい思いをし、二日酔いも重ねましたが(笑い)、本当に自分を助ける唯一の道は、何があっても心を揺らさないよう、なるべく平常心を保つことだと気がつきました。「あちゃー」と思って心が右に揺れても、すぐに「ま、これもそういう運だった」と左に戻し、あまりに揺れがひどければ、手で支えてバランスを取るのです。
今週のレシピ「10分漬けフレンチトースト」は本誌で紹介しています。
※週刊朝日 2012年10月12日号