国際政治学者の父と芸術家の母との間に生まれ、バレリーナになることを嘱望されていた女優の桃井かおりさん。12歳でイギリスに留学したが挫折し、20歳のときジャーナリスト・田原総一朗氏の初監督作「あらかじめ失われた恋人たちよ」でデビュー。「芸能界に染まっていない初々しさ」を見初められての抜擢だったが、ヌードになった娘を偶然見た母が卒倒し、父から勘当を言い渡されたという。当時の心境を語ってくれた。

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 俳優になったとき、私はすごく傷ついた。周りも傷つけました。「映画の中だからそれは私じゃない」と思ってたら、私が"そういう人"だということになってた。なんか嘘ついたまんまの感じ。万引きした帰り道に「もしもし、お客さん」っていつ言われるかってビクビクしながら歩いている、あの感じですよ。恋愛にも仕事にも暑苦しくて、あのころの自分は嫌いですね。

 そもそもコンプレックスのかたまりですから。その一つひとつをドロップのように食べてたらおいしくなってきて、こんな女になりましたって感じ(笑)。だって女優が隣の子みたいな顔で出ていいっていう先駆けですよ、私(笑)。デビューしてしばらくは、まつげ用の糊で頬におかっぱの毛を貼ってた。「桃井かおりは前からしか撮れない、横顔を撮れない」って有名だったんですから。「早口言葉ができない」とか「桃井かおりにナレーションは無理だ」とかさんざん書かれた。それが年月を重ねるだけで、それなりに、いや想像を超えたことになってるから人生ってすごいですよね。

週刊朝日 2012年10月5日号

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