昭和史の主役を題材にした人物評伝から最近は中高年の性を取材した作品まで、濃厚な内容のノンフィクションを次々と発表し続ける作家の工藤美代子氏。作家の林真理子氏との対談で、取材で明らかになった中高年女性の性の実態について話した。

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工藤:私、今62歳なんですけど、「62年間、何して生きてたんだろう」と思うほど、取材した女性たちの話がみんな想像を絶するんです。今、林さん五十いくつ?

林:58歳です。

工藤:たとえば林さんが20歳のころ、58歳の人なんて絶対にセックスをしないと思っていたでしょう。

林:四十いくつで、もうしてないだろうと思っていましたよ。

工藤:私もそう思っていたんですけど、70でも80でも皆さんしてらっしゃるんですよ。

林:ほんとですかァ~?

工藤:ただ、70代80代で女性がセックスをする場合、男の人より肉体的に難しくなってくるんです。男の人はバイアグラという画期的な薬が発明されて、問題がほとんど解決されたから、70でも80でも大丈夫なんです。女性にはそういうのがないから、皆さんノウハウを知りたくて必死なんですね。それで、「このまま女としての悦(よろこ)びを知らないで死ぬのはいやです」って、切々たるお手紙を送ってくださるんですよ。

林:そういう年代の人って、たぶんご主人一人しか男の人を知らないし、そういうことをするのは、はしたないと思ってきたから。

工藤:ご主人と離婚したり、死に別れたりされた方が、「このまま娘の家に引き取られていったら何もできなくなります。その前にどうしても女としてやり残したことをしたい」なんて書かれているのを読むと涙が出ます。そういう人をあざ笑うじゃないですか、世間は。「ババアなのに」とか言って。でも、けっこう大事な問題だと思うんですよ。

週刊朝日 2012年10月5日号