ではなぜ、松叩きが読者にウケたのか。すでに述べたように、キムタクの相手役を演じたことが大きな原因だが、それなら「ロンバケ」の山口智子や「ビューティフルライフ」の常盤貴子だってもっと嫌われたはずだ。そこにはやはり、芸能人としての松の特殊性が関係している。それはズバリ「梨園の娘」というやつだ。
■梨園の娘に生まれて
周知のように、松の父は高麗屋の松本白鸚(はくおう)で兄は松本幸四郎。デビュードラマとなった94年の大河「花の乱」では主人公の少女時代を演じ、ハトコで同い年の市川海老蔵(成田屋)とラブシーンもこなした。七光りどころか、歌舞伎界全体からの光のシャワーにつつまれて世に出た感があり、バッシングの年には、兄の隠し子騒動という梨園にありがちな出来事も起きている。
そんな松が歌手としても成功したことについて、白鸚はこんな思い出を語った。
「うれしいですね。小さい頃に母が、この子は歌が上手いから歌手にしたら? ってよく言ってました」(「あさイチ」17年12月)
これはよくある親バカ的な夢物語ではない。梨園の娘に生まれた以上、何らかの芸能活動はするだろうから、そのなかで何が向いているかという、現実的なプランの話だ。そして、祖母の見立て通り、松は歌でも成果を上げた。
この構図を世間から見れば、生まれながらの芸能人が何の不自由もない感じで成功を重ねていったようにも映る。松自身は「名門の娘」と呼ばれるのがいやで、ピアニストになろうと考えたこともあるというが、これとて「庶民」には理解されにくい悩みだろう。
■木村拓哉も驚かせた仕事感
そういえば、松の特殊性を強く感じさせたやりとりがある。「HERO」(01年)のときだったか、テレビ誌で「自分がやりたい仕事しかやってないし」というような発言をして、対談相手の木村を驚かせていたのだ。叩き上げのアイドルとして何でもやらなくてはいけなかった木村との違いが際立つやりとりだった。
とまあ、天下のキムタクさえも驚かせる「自由で恵まれている感じ」というものが、バッシングにつながったのではと考えられるのである。