西口:9分割はCRM(顧客管理)の施策を考えるのにも親和性が高いので、今のかたちに落ち着きました。それから、本を書いた理由は実はもうひとつあります。マーケティングの部門と、営業・販売促進の部門とのせめぎ合いという問題が、どこの会社にもあるんです。宣伝系やPR系のマーケティング部門は、ブランディングは「数字にできないもの」とか「アートだ」とか言っている。一方で、営業・販売促進部門は徹底的に「売り上げだ!」と繰り返している。ブランディング信仰のマーケティング担当者は、営業・販売促進の施策を「一過性のものだ」と、敬意を持っていません。それに対して営業・販売促進の担当者は「売り上げにならないところに、無駄なお金を使っている」などと、ブランディング施策を批判しがちです。経営者の立ち位置がフラフラしていることも多いですね。業績が落ちてくるとブランディングの費用を削って販売促進寄りになる。でも、業績が上がって資金に余裕が出てくると、無駄なイベントをやったり広告を出したり、謎なブランディングやPRなどに投資するわけです。

足立:どちらも正直、無駄ですよね。

西口:根本的な問題は何かといったら、ブランディングの成果を何で計測するかということなんです。NPS(Net Promoter Score=ブランドに対する愛着・信頼の度合いを数値化する指標)など含めてさまざまな指標とビジネス結果の相関関係を調べてきましたが、結局、「次にこのブランドを買いたいと思いますか?」という質問に対するシングルアンサーが、ブランディングも販売促進もすべての施策の成果を、最も正確に計測できるということに気づいたわけです。

足立:たしかに、次回の購買・使用意向が縦軸に入っているのが9セグマップの大きな特長ですよね。

西口:ただ、いまだにブランディングをやっている人たちには誤解があって。よく「ユーザーたちはこのブランドに、こういうイメージを持っています。これをブランドエクイティ(ブランドが有する資産的な価値)と呼びます。これを再現すれば、またユーザーが増えます」という主張をするのですが、これは大間違いです。結果を再現しても、その結果を生み出す原因にはなりません。顧客は何らかのかたちでそのブランドの製品に触れて、気に入って、購入したわけです。そのユーザーに聞くと、ブランドのA、B、Cの要素をすごく評価している。それがその顧客のブランドに対するイメージです。でも、そのA、B、Cを他の人に伝えても、ブランドに対して同じイメージを持ってくれるわけではありません。買わない人たちは、そのブランドのA、B、Cの要素に対して響いていないから、買わないわけです。そういう根本的な間違いに気づかずに、結果を繰り返したら同じ結果が出るという間違った前提で、今のユーザーが気に入っているブランドの要素を、新しい顧客に対しても訴求し続けるという、無駄な施策を繰り返しているんです。その無駄を変えたいと思ったのも、この本を書いたもうひとつの理由です。ブランディングと称して世の中で行われているマス広告は、半分以上は何の意味もない、今すぐやめても何の影響もない無駄遣いだと思っています。

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あえてブランド広告的な訴求をやる意味は?