「免疫力を上げる」「免疫力を高める」という宣伝文句をよく耳にしますが、本当に効果があるのでしょうか? そもそも、それはいったいどういう意味なのでしょうか? 好評発売中の『心にしみる皮膚の話』の著者で、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師が、疑わしい医療情報について警鐘を鳴らします。
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「免疫力を上げる」「免疫力を高める」
このような言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。
インターネットで「免疫力」と入力すると「免疫力を上げる食事」や「簡単に免疫力を高める方法」など数多くの検索候補が出てきます。いくつかのページでは、「腸内環境を整えると免疫力が上がる」「食事で腸内細菌叢(そう)を変え免疫力を高める」など、何やらそれらしい説明がなされています。
さて、こういった「免疫力を高める」といった説明は本当に正しいのでしょうか?
腸内細菌と免疫は、古くから関係が示唆されていました。それが科学的に証明され始めたのが2000年代後半。一部の腸内細菌が免疫細胞を制御していることがわかりました。
少しむずかしいですが、ここで免疫システムについて理解するのに必要な「免疫細胞たち」について説明しておきます。
血液中には赤血球、白血球、血小板などが存在していることは、みなさんご存じだと思います。白血球を詳しく見てみると、とてもたくさんの種類に分けられます。その中でもリンパ球と呼ばれる細胞集団が免疫では重要な働きをします。
ややこしいことに、リンパ球はさらに細かく分類されます。体の中でがん細胞ができたとき、免疫の力で攻撃する戦力となるのがキラーT細胞です。キラーT細胞はリンパ球の一種です。もともとはウイルスなどと戦い、体を防御するために存在する細胞です。
人間の体の免疫には、戦うだけでなく、戦っている戦士の暴走を食い止めるリンパ球もいます。それが制御性T細胞とよばれるものです。制御性T細胞は、大阪大学の坂口志文先生が発見した細胞集団で、この細胞がないとリンパ球が間違って自分の臓器を攻撃してしまい病気になります。免疫が安全に働くようにコントロールしている細胞たちです。