「平成」から「令和」へと改元した2019年も、もうすぐ終わる。朝日新聞取材班が出版した『平成家族 理想と現実の狭間で揺れる人たち』(朝日新聞出版)には、昭和の慣習・制度と新たな価値観の狭間でもがく家族の姿が描かれている。平成になって共働きが当たり前となり、男性・女性問わず、積極的な育児参加が欠かせなくなった。「イクメン」「女性活躍」が推奨される一方で、「男が家計を担う」とする旧態依然の意識も根強い。「令和」になっても引き継がれる、家族をめぐる課題。その一端を本書から紹介する。(肩書・年齢は取材時のものです)
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■娘のため定時退勤宣言した31歳会社員
東京都国分寺市に住む会社員の男性(31)は2015年の10月、職場にこう宣言した。
「保育園のお迎えがあるので、これから毎日定時で帰ります!」
妻(31)もフルタイムで働く。長女(2)が保育園に入園したタイミングだった。
男性は結婚後、深夜まで残業することも珍しくなかった。周囲の子どもがいる同僚や上司も同じような働き方をしていた。それが、長女が生まれたことで、働き方は一変した。
お互いの実家は遠方にあり、近くに頼れる人はいない。妻は職場まで満員電車に揺られて片道1時間はかかる。一方、男性の職場は自宅から徒歩圏内。保育園も自宅近くに確保でき、自然と「送り迎え」を担当するようになった。朝は起きてから簡単な朝食を用意し、夜は妻が帰宅するまでに夕食を作る。平日は「仕事をしているか、子どもと一緒にいるか」という生活をほとんど毎日繰り返すようになった。
周囲から「すごいね」と言われることもある。それには「父親として当然のことをしているだけなのに」と違和感を覚える。
「仕事の代わりはいても、父親の役割は自分にしかできない。育児は楽しいし、『定時退勤』を宣言したことに後悔はない。でも、同僚や上司が、本音ではどう思っているか。意識的に考えないようにしていますね」
ただ、こうした生活にふと気持ちが揺れることもある。
たとえば、半年に1度支給されるボーナス。残業をしている同僚には5~10%ほどの加算があるが、自分にはない。月々の給料も残業代が支払われないため、新入社員のころとあまり変わらない額になっているという。