「社内で面白そうなプロジェクトに関われるチャンスが目の前にあっても、家庭とのバランスを考えると踏み込めない。時間に制約がなく取り組める同僚たちをうらやましいな、と見てしまいます」
社内では、共働きで幼い子どもがいるという境遇の社員はごく少数で、自分の働き方を理解してくれる上司や同僚はほぼいないと感じる。自分のように制約がある立場では、「いいポジション」を求めて異動希望を出すことや、外部の転職の誘いに乗ることもできない。職場での過ごし方は、「目の前の仕事をただこなしているだけ」になった。
「これから、何に生きがいを見つけよう」
そんな悩みも抱える。
「育児を『やってあげている』と思うべきでないことはわかっています。でも、世の中の大多数の男性に比べれば、かなり頑張っているとは思うんです」
いまの会社に転職したことも、結婚して子どもを持つことも、突き詰めてみれば「自分の選択で決めたこと」だ。でも、世間で「イクメン」が称賛されていることにはつい冷めた目を向けてしまう。
「やりがいのある仕事もばりばりこなしながら、育児や家事にも関わっていくなんて、どうすればできるんでしょうか。もし、やれるものならやってみてほしい」
「育児を楽しむ男性」を指す総称として、2010年ごろから使われるようになった「イクメン」。言葉の浸透とともに男性の育児参加への意識は高まっているが、育休は女性に偏る。男性の取得率は16年度にようやく3%を超えたところだ。
「日本社会はいまイクメンを奨励し、『女性活躍』も叫ばれるようになったが、『男が家計を担う』という性別役割分業の考え方は根強い。男女間には賃金格差があり、勤務時間の長さで評価される実態が残る」
こう話すのは田中俊之・大正大准教授(男性学)。その結果、子育て真っ最中の30~40代前半ぐらいの世代が、矛盾を感じるようになっているとし、田中准教授は「従来のような大黒柱としての男性の働き方を変えられなければ、板挟みで悩む人が増えるだけ。個人の努力に委ねるのではなく、社会全体で働き方を変えていく必要がある」と指摘する。(朝日新聞記者・中井なつみ)