「フィリピンにはハバルハバルというバイクタクシーがあります。これに乗るときに値段交渉をしている私を見て、『今日は安かったね』などと言うようになり、5歳にして金銭感覚を養い始めているなと感じたことがありました。日本じゃなかなか値段交渉を日常的にする環境ってないですよね」

 また、Kyonは、セブ島のイナワヤン地区のゴミ山へのボランティア活動に息子を連れ出したことがある。フィリピンではゴミの焼却時に有害物質を出してはならない法律があるが、焼却技術がなく、ゴミは特定の集積場に積み上がっている。イナワヤンのゴミ山は近隣の集落を巻き込み、解決策もないまま200万立方メートルにまで及んでいるという。

「ゴミ山の近くで暮らす子どもたちに、炊き出しと衣服の寄付をしに行ったんですが、息子ははじめ、ゴミ山のすごさと、臭いにただただ驚いていました。ですが、ゴミ山周辺の集落に入ってみると子どもたちと遊び始めたんですね。現地の子どもたちは貧しく、小学校に行かずに働いていたりするので、セブアノ(セブ島周辺のビサヤ地方の言語)しか話せません。それでも息子は彼らと遊び、最後には片言のセブアノでコミュニケーションを取っていました。どんなバックグラウンドでも、言葉が通じなくても、子どもにはそんなの関係ないんです」

 状況を理解し、それを受け入れる力。言葉が通じなくても、どうにかコミュニケーションをしようとする力。さまざまな文化を経験しているからこそ、こうした力が自然に身についているのかもしれない。

「人と人の関係において、境遇の違いは重要でないことを知ったこの体験は、彼のこれからの人生を豊かにしてくれる一つの要素となると私は信じています」

 Kyonが何度も繰り返した言葉がある。「みんなちがって、みんないい」。これは、金子みすゞの詩の一節だ。海外経験の中で、人々の持つ違いを受け入れ、また自身も受け入れられてきたからこそ、この言葉の持つ意味が文化の違う人とコミュニケーションを取る場面でどれほど大切かを知っているのだろう。

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