■「会議」という堅いイメージではない

石山:それはあると思います。近年はエンディングノートを書く人も増えているようですが、「周りの人と一緒に書きましょう」と書いてあるんですよね。また、死ぬことだけではなく、どう生きるか、何をしたいかということも書くようになっています。でも気持ちは変わりうるんですよね。ですから一回書いたから終わりにしないこと。書いたことを当人が忘れることもあります。いよいよ執行する段階で意図しない結果にならないよう、見直しをすることも計画の一つにしておく。書き直して今の状況に最適化するように変更していくもの、と考えておくとよいと思います。

 人生会議という名前から「会議」というちょっと堅いイメージをもたれそうですけど、そうではなくて、ACPは日常の中でコミュニケーションしながら意思を確認していくことなんですよね。

石本:そういう機会が、亡くなった後の遺族のグリーフ(深い悲しみ)ケアにもつながりますからね。

中島:そうですね。それで思い出したんですが、12年前に、旦那さんを看取った奥さんとお話しする機会がありました。「私は夫がいなくなったら生きていけないと思っていたけど、いまはすがすがしい気持ちです。あのときに、話し合いをして夫の希望に沿えたからだと思います」と言ってくださったんです。ACPは遺族のケアにもなると思います。

石山:ACPをやることの正解というのは、ある意味、そういうことだと思うんですよ。ケアマネジャーをやっていたときに、あと余命10日ぐらいという人を担当しました。最初のうちは歩けていたんですが、翌々日から歩けなくなり、「お風呂に入りたい」と言ったんですね。お風呂に入ったら、かなり体力を消耗してしまうという状況でした。

 そこで、すぐ訪問診療の医師に電話をかけました。「何かあったらすぐ行きますから、入れさせてあげてください」と先生が言ってくれました。そこで訪問入浴介護をお願いしたら、「今日、19時以降(営業時間が終わってから)ならいいですよ」と言われたんです。そのお風呂に入られた夜にその方は亡くなりました。入浴後にゼリーを食べて、「おいしい。ありがとう」と家族に言ったのが最期の言葉でした。ご家族もそれで満足されました。そのときの医師にすごく感謝しています。

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私たちのようなプロを上手に利用してほしい