松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長
松本秀男(まつもとひでお)/医師。専門はスポーツ医学。1954年生まれ。東京都出身。1978年、慶応義塾大学医学部卒。2009年から2019年3月まで、慶応義塾大学スポーツ医学総合センター診療部長、教授。トップアスリートも含め多くのアスリートたちの選手生命を救ってきた。日本臨床スポーツ医学会理事長、日本スポーツ医学財団理事長
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※写真はイメージです(写真/GettyImages)
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 スポーツをやり過ぎると、からだに無理がかかり、痛みが出ることがあります。その多くは、スポーツをやめれば治るのは確かですが、正しい対処法はそれだけに限りません。専門的なスポーツドクターにかかると診断、治療のアプローチがまったく違ってくるといいます。一般のドクターとどのような違いがあるのか、日本臨床スポーツ医学会理事長・松本秀男医師に教えてもらいます。

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「スポーツ外傷」と「スポーツ障害」。名前が似ていますが、この違いをご存じでしょうか?

「外傷」が一回の事故やケガなどで起こるのに対して、「障害」は同じ動作をくり返しおこなうことにより一定範囲を超える負荷がかかって起こります。

 オーバーワークで起こる「障害」には、例えば大工さんがハンマーを叩きすぎた時などに発症する、手首の骨が壊死する「キーンベック病」や、ハイヒールをずっと履いている女性に多い、圧力がかかることで足の人差し指の骨がつぶれて痛みが起こる「フライバーグ病」などがあります。
 
「スポーツ障害」の例としては、走り過ぎによる「ランナー膝」や打ち過ぎによる「テニス肘」、泳ぎ過ぎによる「水泳肩」などがよく知られています。スポーツ障害は、負荷に耐えられるギリギリのラインを超えて同じ部位をくり返し酷使したことによって徐々に生じます。最初は「ちょっと痛いかな」と思うくらいで、局所に炎症が見られるだけで済みますが、無理をしてそのままスポーツを続ければ腱や靱帯の損傷、軟骨の擦り減りなどの変化をきたし、痛みがひどくなるとともに治療も難しくなっていきます。

「スポーツ障害」は、基本的にはオーバーワークにより起こります。そのため、普通の医者にかかれば、「スポーツをやめれば治りますよ」と言われることが多いのは当然です。しかし、それだけが正解ではないのです。実際には、その患者さんのスポーツの種類や損傷の程度により、「スポーツ障害」の状況はさまざまです。通り一遍に「やめれば治る」という医者は、スポーツドクターとしては「やぶ医者」だと言えるでしょう。

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休めば戻る障害なのかを的確に診断