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50年に及ぶ格闘人生を終え、ようやく手にした「何もしない毎日」に喜んでいたのも束の間、突然患った大病を乗り越えて、カムバックを果たした天龍源一郎さん。来年に迎える70歳という節目の年に向けて、いま天龍さんが伝えたいこととは? 今回は「ライバル」をテーマに、飄々と明るく、つれづれに語ります。
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毎日ラグビーが盛り上がっているからか、最近は盟友だったレスラー、阿修羅・原(編集部注・2015年没)のことをよく思い出すんだ。日本人で初めて世界選抜にも選ばれた、まさにスポーツエリートだった彼が存命していたら、あちこちから声がかかっていたんじゃないかなって。もしかすると今テレビで活躍していたのは、俺じゃなくて彼だったかもしれないなんてことを考えるよ。力士出身の俺と同じくらい、ラガーマンだったという自分にものすごいプライドを持っている奴だったから。
全日本プロレス時代に天龍同盟を二人で始めたとき、いつも話していたのは、「こんないい加減なプロレスをやっていたら、いつか世間にナメられる」。俺たちはちょっとでかいスポーツマンっていう位置づけだったから(笑)、とにかくプラスアルファがほしくてね。似たもの同士だけど、どこかプロレスに対して自信が持てない二人が、激しい戦いをやり続けることで箔を付けたくて、その一心で頑張った。勝っても負けても、気持ちを分かち合えるのはお互いしかいなかった。今回のテーマはライバルだということだけど、現役で働いている人は、どこか性格が似ている相手を職場で見つけるのも、手っ取り早いのかもしれないね。
俺はよく、「ライバルは絶対にいたほうがいい」って話すけれど、ライバルがいることで一番大切だと思うのは、「生き抜ける」っていうことなんだよ。例えば、自分が行き詰まったときに、「あいつだったらどうしたかな」というように、自分を重ねることができる。どうやってこの窮地を乗り越えるかという励みにもなるし、その人となりは反面教師にもなる。自分の成長の物差しとしてね。好きとか嫌いとか、顔も見たくないなんていう単純なことじゃない。自分の頭にはないことを気づかせてくれたり、行き過ぎた自分にストップをかけたりしてくれる。