口の中の病気の歯周病は、多くの全身の病気をひきおこします。とくに、皮膚の病気と密接に関係していることをご存じでしょうか? 好評発売中の『心にしみる皮膚の話』著者で、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師が解説します。
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むし歯の治療は楽しいものではありません。
高校と大学、私は歯医者さんに通うのが嫌で嫌でむし歯を放置したまま過ごしました。
皮膚科医になり、むし歯や歯周病と皮膚病が関係していることを知り、慌てて近くの歯科に行きました。
予想通り、きちんと手入れをしていなかった私の歯はむし歯だらけでした。今となればわかるのですが、毎日の歯磨きと歯間ブラシを行い、歯科で定期的に歯石をとるのが必要なのでしょう。どんな病気も予防に力をいれるのが重要です。
当時の私のむし歯は、歯の根元まで炎症が及んでいる歯髄炎(しずいえん)と呼ばれるものでした。さらに、親知らずのむし歯も相当ひどく抜歯しなければいけないほどでした。
「痛かったら手を上げてください」
優しそうな歯科衛生士さんに言われ、我慢しきれずに手を上げれば、
「もう少しで終わりますので我慢してください」
と先生からぴしゃり。
ずっとむし歯の治療をしなかった自分がいけないとわかっていながら、その歯医者さんのことは苦手になりました。なんともわがままなものです。
さて、むし歯や歯周病は多くの病気をひきおこします。とくに、皮膚の病気と密接に関係しています。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)という病気をご存じでしょうか? 手のひらや足の裏に膿(うみ)をもったブツブツが多発する皮膚病です。
この病気はあまり知られていないため、正しく診断されている患者さんが少ないと考えられています。足の裏の症状は水むしと間違えられ、手のひらのブツブツは手湿疹と勘違いされます。
そして、掌蹠膿疱症は関節炎も合併することが知られています。胸の骨が痛くなる胸肋鎖関節炎(きょうろくさかんせつえん)。関節痛が皮膚の病気と関係あるとは、一般の方には想像もつかないでしょう。
ややこしいことに、皮膚の症状の前に関節炎だけが出現する場合もあります。関節炎が続いた後、手足にブツブツが出て掌蹠膿疱症と診断されるケースがあります。