つまり、いくら吸収力があっても感度が悪ければ意味がないわけで、彼女はそのあたりも優れているということだ。この映画での役柄は、生活費にも事欠くなかで喪失感を抱えながら投げやり気味に生きるシングルマザー。パンフレットのコメント欄には、他の映画監督からの「立派にもう大人の女優なんですね」「前田敦子さんの奇跡感が凄いです!」といった賛辞が並んでいる。

 そんな女優としての実績と評価は、他の「神7」たちと比べても一段二段抜けている印象だ。前田は卒業組のなかでもセンターであり続けているのである。 

■秋元康の挫折

 にもかかわらず、グループ時代の輝きからは少々かすんで見えたりもするのは、AKBが今も現役グループであることが大きい。それこそ、おニャン子は2年数ヶ月で終わった「企画モノ」だが、こちらは十年以上も売れ線の「定番商品」で、やめた人がそれを超えるのは難しいのだ。 

 また、おニャン子の面々はグループのそういう本質を自覚していたから、ガツガツするしかなかった。特に私生活においては、前出の工藤はもちろんのこと、芸人や作曲家と結婚したり、ミュージシャンと不倫したり、あるいは系列グループに就職したり、その社員と結婚したり、さらには闘病経験を機にコメンテーターになったりと、その上昇志向や生き残り戦略は目を見張るものがあった。その究極が、秋元を射止めた高井麻巳子だろう。

 一方、前田も尾上松也やTaka(ONE OK ROCK)野田洋次郎(RADWIMPS)らと浮名を流したが、尾上以外は信憑性が低い。結婚相手の勝地涼にしても、彼女のほうがやや格上だから、恋愛にガツガツとしてきた印象はない。

 ちなみに、AKBを定番商品にまでしたのは、秋元の挫折からくる執念である。フジテレビ主導だったおニャン子が番組人気の低下で切り捨てられたことから、彼は自分自身の主導で劇場主体の地に足のついたグループを作ることを目指した。その品質を磐石にするために、恋愛禁止のルールなどでメンバーの帰属意識を高めたわけだ。総選挙というシステムも、内なる競争をあおることで、外への「ガツガツ」を生まないという効果がある。

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「主演女優」が天職か