2014年の「アニメロサマーライブ」では、衰え知らずの歌唱力とともに、57歳には見えない美脚も話題になった。ももいろクローバーZとコラボした「アクビ娘の歌」はこの年のアニサマでも有数の名演といえる。
なお、アニメ好きの少女でもあった森口は「キャンディ・キャンディ」を「人生のバイブル」と呼び、その理由をこう振り返っている。
「私は母子家庭で育ったんですけれども、母親が夜仕事に行く間はキャンディの頑張りで(略)夜の時間を乗り越えていけたという」(アニメイトタイムズ)
この「アニサマ」で、ももクロと世代を超えた共演をしていた堀江の姿は、まさに最近の森口とも重なるものだ。いずれは水樹も、その道を歩んでいくのだろう。
■「のど自慢」的な文化がすたれつつある
では今後「のど自慢」と「アニソン」の関係はどうなっていくのか。
同じく14年の「NHKのど自慢」では、ゲストでもあった水樹の「DISCOTHEQUE」をうたった女子高生が優勝。ルックスもよく、ネットを騒がせた。その後、同一人物と噂される声優兼アニメ歌手がデビューし、活躍中だが「のど自慢」のことは公表されていない。
ちびっこ時代からの経験が活かされているという意味では、むしろ子役出身の悠木碧のような存在に注目すべきだろう。水樹と同世代の坂本真綾も似たケースだが、最近は「ちびっこのど自慢」的な文化がすたれつつあり、子役出身のほうに期待するほうがよさそうに思える。21世紀アニメの金字塔「魔法少女まどか☆マギカ」はヒロインの悠木なくして成立しない作品だし、エンディング曲のひとつ「またあした」は奇跡的な名曲だ。
実際、歌にも芝居にも自然体的なものが求められがちな今、ちびっこのど自慢的なスタイルは大げさで古くさく感じられるのかもしれない。しかし、それでも森口や水樹のような歌手が評価され、人気を博すのはそこにあるような芸能らしさが捨てがたいからではないか。そういえば、水樹は子供のころ、美空ひばりの名曲群を老人たちの前で歌って、その涙や笑顔に触れたことが原体験になっているという。
「時に、私の小さな手のひらに、お金を包んだ紙やティッシュがねじ込まれることもあった。いわゆる“おひねり”だ。子供ながらに、なんだかいいことをしている気分になったし、とてもうれしかった」(水樹奈々『深愛』より)
おそらく、芸能とは本来そういうものなのだろう。ふたりの女王は、いまやアニソンこそが芸能の王道であることを体現し、世に伝えているのだ。
●宝泉薫(ほうせん・かおる)/1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など。