「TPPでは、普通自動車の2.5%、大型車25%の関税について、30年後に撤廃するとなっていた。気の遠くなるような約束でしたが、それでもTPPでの数少ない成果の一つとされていました。それすら、今回の交渉では破棄されてしまった。得るものはなく、失うだけの交渉結果です。これで『TPP水準にとどめた』と言うのは間違いです」

 茂木敏充経済再生担当相は、このことについて記者会見で聞かれても「内容については合意がなされた段階で公表することになる」とコメントを拒否。「交渉で米国に押し切られた」との批判をかわし続けている。

 安倍政権が原則的立場を崩してまで米国に譲歩したのは、トランプ大統領の“脅し”が影響している。トランプ氏はこれまで繰り返し日本の対米貿易黒字を批判。日本産自動車への追加関税について検討してきた。今回の日本側の譲歩で当面の追加関税は回避されたものの、トランプ氏は「もし私が望めばできる」(26日)と、今後も追加関税を交渉カードで使うことを示唆している。

■存在しない「害虫被害」で米産トウモロコシを大量輸入

 日米の合意では、日本が米国産飼料用トウモロコシを275万トン輸入することも発表された。日本の年間消費量の3カ月分に相当する。その理由について菅義偉官房長官は、九州地方を中心に7月からアフリカやインドなどで食害を起こしている「ツマジロクサヨトウ」の発生が確認されていて、「(日本国内でトウモロコシの)供給が不足する可能性がある」と説明した。

 ところが、農林水産省はトウモロコシの被害について「現状で影響は出ていません」(植物防疫課)と供給不足を否定する。現在は、ツマジロクサヨトウの大量発生を防ぐために農薬による防除や早期の刈り取りを促しているものの、作物への影響はわずかで被害量もまとめていないという。

 なぜ、安倍政権はありもしない害虫被害という“ウソ”を持ち出したのか。前出の鈴木教授は言う。

「『TPP以上の譲歩はしない』と説明してきた安倍政権が、米中の貿易摩擦の“尻ぬぐい”でトウモロコシを輸入することになると『TPP超え』になってしまう。そのことの言いわけに『害虫被害が発生した』と説明したのでしょう。トランプ氏は、参院選前の今年5月の日米首脳会談後に『おそらく8月に両国にとって素晴らしいことが発表されると思う』と発言していたことからわかる通り、『密約』として穀物の大量購入ありきで、理由は後付けとみるのが自然です」
 

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誰も言わなくなった安倍政権の公式名称