



「日本一有名な特急は?」と聞かれて「あずさ2号」と即答する人は40代後半以上だろうか。しかし、国鉄・JR特急の歴史に共通する流れをひと通り経験した『8時ちょうどの「あずさ」』に着目すると、実に興味深い変遷を知ることができるのであった。
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■わずか2往復だった特急「あずさ」
特急「あずさ」が誕生したのは、1966(昭和41)年12月12日。1964(昭和39)年10月に東海道新幹線が開業し、余剰になった151系が181系に改造されて、山陽本線と関東地方に特急が数年かけて新設された。そのひとつが中央東線の「あずさ」であった。
登場時の「あずさ」はわずか2往復で、下りは新宿8:00発→松本11:57着の「第1あずさ」と、新宿16:20発→松本20:18発の「第2あずさ」のみ。つまり、「あずさ」は誕生時から8時ちょうどだったのである。『特急「あずさ」』(天夢人刊)に8時ちょうど発の時刻表を並べたページがあり、実に興味深く感じられた。
その前に、「あずさ」の列車愛称は、上高地を流れる清流「梓川」が由来である。実は、これは非常に画期的なことだった。今でこそ「ひたち」や「しなの」など、走行エリアをストレートに表す列車は多々あるが、当時は特急では自然現象(「こだま」「おおぞら」など)や鳥の名前(「つばめ」「白鳥」など)から、急行・準急では地域性を表すものから、という不文律があった。そのため、「あずさ」の2カ月前に登場した信越本線経由の特急「あさま」ともども、地名由来の特急愛称は異例のことだったのである。
登場時の「あずさ」は、2往復とも途中停車駅が甲府と上諏訪のわずか2駅のみ、という設定だった。その後は増発とともに途中停車駅が増えていった。1968(昭和43)年10月1日のいわゆるヨンサントオダイヤ改正では、列車愛称名の呼称が「第1●●、第2●●~」から「●●1号、●●2号~」に改称されたのである。「あずさ」ももちろん対象で、8:00発は「あずさ1号」となった。