●ヤンキースにおけるファンと球団の関係性。

 思い浮かんだのが、MLBヤンキースの一部コア・ファンとチームの関係性。

「アメリカ野球には集団応援文化はない」という固定概念があるが、そうでもない。旧ヤンキースタジアム時代から、ライト側ブリーチャー席(自由席)に陣取る『ブリーチャー・クリーチャー』という団体がいた。リーダーはバルド・ヴィニー・ミラノ。スキンヘッドの強面にサングラス、プロレスラーのような風貌の屈強な男だ。

 彼らの応援スタイルは『ロールコール』と呼ばれる。プレーボールに合わせ守備につくヤンキース選手の名前を一人一人連呼。インプレーで試合が動いていようがおかまいなし。選手が手を挙げたりのリアクションをとるまでやめない。

 08年、旧ヤンキースタジアム最期のオールスターゲームがおこなわれた。ヴィニーに当時の話を聞いたことがある。

「外野席はいつもは自由席だが、オールスターゲームは当然、指定席。しかも記念試合だから入手は困難。だけど『ブリーチャー・クリーチャーがいつもの場所にいるのがヤンキースタジアムだ』と言って、球団が我々の人数分を確保してくれた。それについて批判もあったと聞くけど、心が通っていたことがわかった。ヤンキースのことを悪の帝国、と言う人もいるがファンを大事にする球団。チームに対する愛、忠誠心は誰にも負けない」

 この試合、地元テレビ局が密着取材をするなど、ヴィニーは一躍、時の人となった。正装のタキシード姿でライトスタンドから叫ぶ姿は、選手以上に取り上げられた。

 翌年から現在の新ヤンキースタジアムへチームは移転。その後数年間はヴィニーも同様にライトスタンドから応援していたが、今では引退したという話を聞く。それでもロールコールは今も、ヤンキースタジアム初回の風物詩として残っている。

●神戸が背負う震災復興の象徴という大きな役割。

 ヤンキースとヴィッセルの件を同列に扱うつもりは、ない。

 乱暴に言えば、ヤンキースの場合は、応援というファンの趣味、道楽を球団が認めたということ。そして例のチケットの件などは、見方を変えれば癒着、便宜を図ったとも言える。

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震災復興の象徴という宿命的な立ち位置