「健康のため」にウルトラマラソンを走るというのは間違っている。昨年、ぼくは房総半島で100kmのウルトラマラソンを走ったけれども、それはそれは健康に悪そうな苦行であった。完走したときの達成感は、あくまで自己満足というもので、その後数日は疲労感が抜けなかったし、風邪を移されて発熱したりもした。マラソンのような強い疲労をもたらす運動は一過性の免疫不全を起こすようだ(Nieman DC, Berk LS, Simpson-Westerberg M, Arabatzis K, Youngberg S, Tan SA, et al. Effects of long-endurance running on immune system parameters and lymphocyte function in experienced marathoners. Int J Sports Med. 1989 Oct;10(5):317–23)。

 ぼくがマラソンに参加し続けるのは走っているときや完走したときの達成感と、データで分かっている健康リスクを天秤にかけて、「達成感」をより優先させているからだ。健康は人生にとって大きな価値だが、価値の全てではないのだから。

* * *
2019年8月28日追記

本文に訂正があります。

「週49単位というと1日7単位、毎日ワイン2本近く(1400mL)というとてつもない飲酒量だ」

とありますが、ワイン2本近くではなく、ワイン1瓶の7割程度、の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

著者がアルコールの「単位」が国ごとに異なっていることに配慮しなかったのが原因の誤謬と思われます。本論文は英国の研究で、アルコール1単位は8gと他国に比べて低めです。この場合、13%のワインですと76ml、7単位ですと532mlとなります。通常のワインボトルは750mlですから、だいたい7割となります。

http://www.addictionjournal.org/press-releases/the-trouble-with-drinking-guidelines-what-in-the-world-is-a-standard-drink

今回の間違いをご指摘いただいた方にこの場を借りて感謝申し上げます。なお、本文は単行本「ワインは毒か、薬か」でも同じように掲載されているので、インターネット上で訂正し、増刷時には訂正いたします。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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