感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。
感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
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ほかにも面白い研究があった。飲酒と運動の関係だ。
最近、運動をしているとアルコールの影響が変わるという研究が発表された。この研究によると、適度な飲酒は全死亡率や心血管系の死亡率を下げてくれるが、がんによる死亡率は軽度の飲酒では下がらない。逆に過度な飲酒だと全死亡率、がんによる死亡率が上がるが、心血管系の病気による死亡率は上がらない。
しかし、週7.5MET時以上の運動をしていると、飲酒によって上がるはずだった全死亡率は上がらなくなり、これは週15MET時の運動でも同じだった。同様の結果はがん死亡率、心血管系疾患死亡率についても得られている。
■毎週1時間程度のジョギングで飲酒はチャラに?
METとはMetabolic Equivalentのことで、安静時(特に何もしていない時)における酸素摂取量3.5(mL/kg/分)を1METとする。ジョギング程度の酸素消費量がだいたい7METだ。ですから7.5MET時だとジョギングを1時間ちょっとやるくらいの運動だ。
毎週1時間程度のジョギングをやっているとアルコールの健康被害は相殺されるというのがこの研究の結果だ。
ただし、害になるくらいの飲酒量、つまり男性だと週49単位以上、女性だと35単位以上の飲酒があると、週15MET時以上の運動をしても全死亡率は上がる。
{!--pagebreak[PM] --} 週49単位というと1日7単位、ワイン1瓶の7割程度。
なぜ運動によってアルコールの健康被害が相殺されるのか。運動によって免疫機能や体の炎症に影響を与え、がんや心臓の病気になりにくい、といったメカニズムが考えられているが、その正確なメカニズムははっきりしていない。
ときに、適度な運動は総死亡率を下げてくれるという別の研究もあった(Arem H et al. JAMA Intern Med. 2015 Jun;175(6):959–67)。そう考えてみると、お酒を飲んでも運動すればそのリスクは帳消しになると考えるか、運動の健康利益がお酒でチャラにされてしまうと取るか、見解の問題になるかもしれない。
まあ、多くの物事はポジティブにもネガティブにも解釈できる、という好例だろう。やはり「程度問題」は運動にも当てはまる。いくら運動が健康にいいからといって、やり過ぎはよくない。
■マラソンを走るのは健康のためではなく快楽
ボストン・マラソンに参加した人の13%に低ナトリウム血症が起きており、0.6%では重症の電解質異常が起きていた。マラソンではものすごく汗をかき、水分と塩分が失われる。
脱水予防に水を補給するが、そのとき塩分の補給がうまくいかず、相対的な塩分不足になってしまうのだ(Almond CSD et al. New England Journal of Medicine. 2005 14;352(15):1550–6)。ぼくも年に1、2回フルマラソンに参加する。決して健康のためではない。走るという快楽のためだ。
率直に言ってフルマラソンやウルトラマラソン、トライアスロンは健康には悪影響がでることのほうが多い。なんでもやり過ぎは禁物だ。