大塚:僕の理想は、医療の情報を楽しくわかりやすく伝えること。戦うという姿勢で医療を発信したくない。アンチ民間とか。そうではなく、共感を広めていく。表現の仕方って大事かなと思っていて、夏川さんみたいに病気でない人が読んでもエンターテインメントとして楽しめる、という表現も大事だと思う。

 あとは医師主導の一般向け講座。学会主導ではなく、医師自らが動かすことで、医師も人間なんだということをみんなに知ってもらう。こっちも悩んでるんだよと。医者も裏では泣いたり、後悔もするし。

夏川:大塚先生の『心にしみる皮膚の話』は、それがすごく伝わってくるんですよね。最初は豆知識を書いているどこかの偉い先生という印象だったけど(笑)。構成もたぶん考えて、軽い話の後に重たい話をもってきている。軽い話、知識の話の中にも、なにかジレンマを感じる。僕はその「いい医療をしたい」という気持ちがとてもよくわかった。書いている本人も悩んでいるというのが伝わってくる、温かい本だと思いました。

 学生時代の印象から、基本は頭の回転の速いドライな人間だと思っていました。こうした本を書くとは思っていなかったです。いい意味で裏切られた。こういう葛藤って、ふつう医師はみんな言語化する機会がないですからね。医者同士もこんなふうに話さないし、酒を飲んでもまとまりのない話しかしないし(笑)。

大塚:夏川先生が先陣を切って医療について小説という形で発信していますが、今後はこうした医師が自ら発信することが普通になるでしょうね。いまは医者でSNSをやっている人が多い。僕らの姿を見ていったさらに若い世代が、本を書いたりSNSをやったりして発信してもいいんだ、と思う流れができればいいなと。

夏川:その流れはいいですね。医者と患者さんが時にぶつかってしまう光景を目にします。医者は高いところにいて患者のことを何もわかっていない!とか。そういうのを変えていく方向になって、立場関係なく信頼が築けるようになれば、いいですよね。

◯大塚篤司(おおつか・あつし)
京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん治療認定医。信州大学医学部卒業で、夏川氏と同期。AERAdot.での連載をまとめた『「この中にお医者さんいますか?」に皮膚科医が……心にしみる皮膚の話』が8月20日に発売。

○夏川草介(なつかわ・そうすけ)
長野県で地域医療に従事。2009年、『神様のカルテ』で第十回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー、シリーズ320万部のベストセラーに。信州大学医学部卒業で、大塚氏と同期。シリーズ4年ぶりの新作『新章 神様のカルテ』が19年1月に発売。

(構成/白石 圭)