日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「流行が広がる手足口病」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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子供の3大夏風邪のひとつである「手足口病」。手足や口に発疹ができる「手足口病」が今、全国的に大流行しており、普段はめったにかからない大人にも広がりをみせています。
先日、「手のひらや足に赤いぶつぶつができた」と受診された40代の方がいました。お話を伺うと、勤め先の保育園で「手足口病」が流行っているとのことでした。
「でも、手足口病って子供がかかる病気じゃないの」と思った方も多いのではないでしょうか。その通り、手足口病は、幼児を中心に夏季に流行が見られる病気です。例年、7月下旬に流行のピークを迎えます。近年は、だいたい1年おきに流行する傾向にあり、今年も流行りの年に当たっているのです。
しかしながら、今年は国が6月末から報告数の増加を認めており、国立感染症研究所の今年の第28週(7月8日~14日)の報告によると、41都府県において1週間で1医療機関あたりの手足口病の患者数が、5人を超える警報レベルに達しています。この勢いはとどまるところを知りません。
今回は、大流行している「手足口病」についてお話したいと思います。
手足口病とは、コクサッキーA16、コクサッキーA6、エンテロウイルス71などのエンテロウイルスが原因ウイルスとなる、伝染性の病気です。感染経路は、主に飛沫(ひまつ)感染(くしゃみやツバに含まれるウイルスが口の中に入る)や、接触感染(水泡が破れた中身が口に中に入る)、糞口感染(便の中に排せつされたウイルスが口の中に入る)です。高温で多湿の環境を好むウイルスであるため、夏季の風邪のひとつとして広く知られています。
感染すると、3~5日の潜伏期間を経て、口腔(こうくう)内や手のひら、足底に米粒程度の水泡を伴った発疹が現れます。3割ほどの人は発熱も見られますが、高熱になることはめったにありません。
手足口病も、他の夏風邪と同様に特効薬はありません。脱水に注意して自然に治るのを待つしかありませんが、多くは数日のうちに治ります。
しかし、髄膜炎、小脳失調症、脳炎などの中枢神経系の合併症や、心筋炎、神経原性肺水腫といったさまざまな合併症を、まれにではありますが、引き起こすことがあります。特にエンテロウイルス71に感染すると、他のウイルスと比較して中枢神経系の合併症を引き起こす割合が高いことが明らかとなっており、手足口病にかかった場合は経過に注意が必要です。