去年に引き続き、九州戯曲賞の選考会で、福岡に行っていました。
 今年で二回目のこの賞はその名の通り、九州地区の演劇活動の活性化を目指して作られたものなので、応募資格は九州に拠点を置いて活動している劇作家になります。
 大学進学で上京してから32年。東京生活の方がはるかに長くなっているとはいえ、やはり故郷には思い入れがあります。九州戯曲賞の選考委員になってくれと打診を受けた時にも、躊躇せずに引き受けました。
 
 今年の審査員は、僕の他は、横内謙介・古城十忍・松田正隆・岩崎正裕各氏というそうそうたる面々。
 戯曲賞の審査員などあまりやったことがないので、新鮮なせいかもしれませんが、この審査会は結構楽しみなのです。
 九州という風土のせいか、応募作にエンタメ系が多く、僕にも理解しやすいということもあるのかもしれませんが、他の劇作家の皆さんと、応募作の一つ一つを論じていくことが面白い。
 自分の作風を確立して活躍している皆さんなので、一つの作品の読み方も視点が異なる。
「ああ、そういう見方があったのか」とこちらも発見することが多いのですね。
 特に松田正隆さんなどは、全く作風が違うので、こちらが思いも寄らない読み方をしたり、まったく気にしなかったところに引っかかったりする。それが実に刺激的なのですね。
 審査員は全員、現役の劇作家です。応募作を読む時も、どうしても書き手の読み方になるのだと思います。他人の作品を語ることは、結局、自分の作劇術を語ることになるんでしょうね。
 
 今回は、残念ながら大賞は出せず、佳作に終わりました。
 どの作品も面白い部分はありながらも、欠点も目立つ。その時、僕が押したのは、結局書き手として、「ああ、この手があったのか」と刺激を受けたモチーフを持った作品でした。
 審査結果は、九州地域演劇協議会のサイトで発表されますので、興味のある方は是非そちらをご覧になって下さい。

 審査会のあと、夕方から候補者と一緒に審査発表をかねた懇親会があります。
 とはいえそんなに堅苦しいものではなく、居酒屋の一角を借り切って、我々審査員と、候補者の皆さん、それに戯曲賞のスタッフの方々が膝をつき合わせてワイワイとやる。
 この賞のスポンサーは、めんたいこの老舗ふくやさんです。これも福岡らしくて、いいなと思います。
 ふくやのめんたいこをつまみながら、それぞれの作品の選評から活動状況、地方での演劇活動の話などになっていく。
 同じ九州とはいえ、福岡市内と他県では、かなり状況が違う。
 今回の候補者で言っても、福岡市内で若者を中心に動員1000人を集めている人気劇団の主宰もいれば、鹿児島の人口三万ほどの市で活動している人もいる。僕の故郷も人口五万程度の市で、それでも大概田舎だと感じているので、活動を継続していくのは本当に大変だろうなと思います。
 そういう人が、この賞をきっかけにして、他の九州で活動している人達とネットワークが出来れば、それだけでも賞がある価値はあるんじゃないでしょうか。
 まあ、東京でやっている人間が一日福岡に来て感じたことなので、あまり偉そうなことは言えませんが、こういう賞の審査員になることで、何か刺激になることが一つでも伝えられるのであれば、時間の許す限り、引き受けたいなとは思っているのです。
 横内さんなんかは、僕が審査員をやっていることが珍しい珍しいと言うのですが、それはただ依頼がないだけなんですよ。
 確かに、これまでは会社員だったので使える時間に限界がありましたが、それもこれからは変わりますしね。