たった1人で三重殺を完成させて味方のピンチを救う――。プロ野球でもたった1例(67年に阪急・住友平が達成)しかない神業のようなプレーが見られたのは、85年の和歌山大会準々決勝、智弁和歌山vs箕島だ。

 センバツ出場校vs前年夏の代表校の好カードは、3年連続の夏出場を狙う箕島が6回を終わって4対1とリード。

 これに対し、智弁和歌山も7回に浜口実のタイムリーで2点差に詰め寄り、なおも無死満塁。このチャンスに1番・木村庄作は三塁ベース寄りに強い当たりのゴロを転がした。

 難なく打球を処理したサード・中尾宏司は、すかさず飛び出していた三塁走者にタッチすると、自らベースを踏んで2死。そして、一塁に送球して、トリプルプレーであっという間にスリーアウトチェンジとなった。

 しかし、レフトの線審は「ファウル」、主審は「フェア」と判定が分かれる微妙な打球だったため、智弁和歌山・高嶋仁監督が「ファウルではないか」と抗議したが、結局、主審の判定が優先される形で三重殺が成立した。

 最大のピンチを中尾の好守備に助けられた箕島は8対2と快勝。実は、中尾はこの回無死一塁でサード正面のゴロをトンネルしてピンチを広げていただけに、尾藤公監督も「よくあの場面であれだけ冷静なプレーができたものだ」と感心しきり。

 一方、3年連続夏の県大会で箕島に苦杯を喫した高嶋監督は「(7回)あそこでひっくり返すつもりだっただけにこたえました。(選手が「ファウル」だと)自分で判断してプレーを止めてしまったのは、私の指導が至らなかったからです。これで選手も成長してくれるでしょう」と雪辱を誓っていた。

 事実上の決勝戦を制した箕島だが、準決勝で和歌山工に0対2で惜敗。以後、黄金期を迎えた智弁和歌山の厚い壁に阻まれ、夏の甲子園は13年まで遠ざかることになる。

 1イニングにソロ、2ラン、3ラン、満塁のサイクル本塁打が飛び出したのが、00年の高知県大会準々決勝、清水vs明徳義塾だ。

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偶然とはいえ、神がかり的な快挙