(1)については、薬の調整で軽減できる可能性があります。具体的には、1日3回飲むお薬があれば1回もしくは2回ですむお薬などへの切り替えを検討します。
また、認知症患者さんの中には高齢の人も多く、高血圧や糖尿病といった他の病気の治療を行っていることも少なくありません。その場合、それらの病気の治療を行っている主治医に状況をお伝えし、同様の調整をお願いした経験もあります。
なかには、切り替えができず、やむなく中止を検討する薬剤も出てくることがありますが、その折々で、やめるとどのような影響が考えられるか説明し、よく相談して決めるようにしています。
(2)も(1)と同じように可能な限りの調整を試みます。錠数が少なくてすむお薬への切り替えや、患者さんにのみ込みにくさがある場合は粉末や液体、体に貼るお薬への切り替えも検討されます。
より難しいのは、(3)や(4)でしょう。残念ながら実際に全てのケースでうまくいくわけではなく、われわれにできることは理解・信頼してくださるように可能な限り繰り返し説明し、意思疎通を積み重ねていくことに尽きるかと思います。
丁寧に話を聞くと「〇〇(別の病気)の薬をもらってる先生が全然話を聞いてくれないから医者は信用できない」や「薬局の先生がこの薬は無理して飲まなくてもいいと言っていた」といったような思いがけない理由を話してくださったケースも経験しました。
もちろん症状によって理解・信頼を得ることが困難な場合もありますが、患者さんとのコミュニケーションの大切さや、医療側としても一貫しないアドバイスが野放しにならないよう、治療に関わるスタッフの間で良好な連携を維持することの大切さを改めて痛感した経験でした。
このように精神科では、認知症や認知症に伴う被害妄想や過度な興奮といった症状に対する治療も担当するため、診療の現場でご家族から介護についての相談を受ける機会に恵まれます。もちろん、ご家族が患者さんのことを思う気持ちはまっすぐに肯定しますが、同時にご家族が無理をしすぎないようにも注意するようにしています。
Aさんの相談からは少しずれますが、少し視点を広げて考えてみたいと思います。家族の希望や支援環境もさまざまなので一概には言えないものの、実際の介護は医療というよりも生活そのものです。相談を受ける問題にも薬の内服だけでなく、「お風呂に入ってくれない」や「仕事中でも何回も何かの確認の電話をかけてくる」「感謝するどころか、不都合を私(家族)のせいにする」など限りがありません。