1988年に架空戦記物でデビューし、書き下ろし時代小説で人気を博してきた六道慧さんの警察小説が話題になっている。現代社会が抱える諸問題を、小説の形で発表している思いに迫った。

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――六道さんの小説の中で、DVは大きなテーマの一つなのでしょうか?

 そうですね。DV、虐待、老人問題、そして、その先にある貧困。これらは、常に追っていきたいテーマです。特に現代では、貧困によって弱くなった者が、さらに弱い者から奪うという図式ができあがってしまっています。そうした、私自身がもともと気になっていたテーマを、実際に発生した事件を念頭に置きながら書いています。

 私が問いたいのは「そこに救いはあるのか?」ということです。文章を書く者として、そうした疑問を読者に投げかけるしかありません。だからといって、解決できるという話でないので、「そうした事件を忘れてはいけない」「自分の心に刻み付けて覚えていてほしい」という思いが強くあります。小説内の出来事でも、現実の事件でも、「実際に自分の身に起きたらどうするのか?」。そう考えるだけでも、何かが変わると信じていますから。

 たとえば、家庭問題を考えた場合、すべてを児童相談所や警察に任せてしまっていいのでしょうか。児童相談所では、特に首都圏において、問題が一気に押し寄せていて、人手不足は深刻です。その結果、事件が起きた後に世間から、「見過ごしたんだ」とか「間に合わなかった」などと言われてしまう。でも、彼らだって、人間ですから、怖いと思って引いてしまうこともあるでしょう。そうすると、警察の介入を許容することになりますが、それによって、かえってこじれてしまうこともあります。家族の問題はとてもデリケートですから。

――児童相談所と警察が組む必要があると考えますか?

 東京では区によっては、すでに組んでいるところもあると思います。児童相談所が対応しているところに、すぐ警察が来て仲裁に入ったり、逆に児童相談所を警察が呼ぶといったニュースを見たことがあります。

 今では混在になっているかもしれませんが、警察では女性だけのチームがあったこともありました。ストーカー事件などでは、被害者の大半が女性ですから、女性警察官の方が相談しやすいでしょう。男性警察官が対応したことにより、「あなたが綺麗だから」と言われた事例もあります。この言葉自体がセカンドレイプですが、それを知ってしまったら、警察に行くのを躊躇いますよね。

 その他の事件でも、基本的に狙われるのは子供、お年寄り、女性などの弱者です。その中でも、今は子供が一番ひどい。「子供たちの問題をどうする?」という気持ちを常に大人は持ってないといけないんです。

――『殺愛 巡査長・倉田沙月』でも、不良少年たちが独居老人からお金を奪っていきます。

 弱い者が、さらに弱い者に被害を与えるという典型です。表には出ないだけで、こうしたことは、すでに起きているかもしれません。最近、よくニュースで取り上げられますが、介護施設でも目の届かないところで何が起きているのだろうかと不安になります。もちろん、普通に運営している施設が大半だと思いますが、表に出ないのでわからない。そういう意味では、自分が被害者になるかもしれません。逆に言えば、知らずに加害者になることだってあり得るのです。

 現代は、ピリピリした社会になってきてしまっていますね。もう少し、子供たちが安心して暮らせる社会にできればと思います。小説を書いている間にも、子供が犠牲になった様々な事件が飛び込んできました。昔も、おかしな事件はあったけれど、これほどひどくはなかったように思います。これが普通ではないということを、作家もマスコミも繰り返し訴えていくしかないんです。

――最近の事件でも問題になっているように、「引きこもり」は現代社会の大きな課題のひとつです。

 8050問題と言われますね。50代の子供が引きこもり、それを80代の親が面倒を見ることを指します。ただ、親はいつまでも元気ではありませんから、親がいなくなった時、どうするのかは難しい問題です。
 
 私も最近知ったのですが、この問題ではNPOが活躍しているようです。NPOが主体となって、親を亡くした引きこもりの男性を立ち直らせているんです。まずは、働き方の問題。彼らは、どうやって働いたらいいかが分からない。すごいと思ったのは、NPOでは、彼らの生活を考慮して仕事を考えていることです。部屋でずっとパソコンを使っているなら、在宅でできるパソコン関係の仕事をすることで、生活していけないか。また、彼らは夜、家族が寝静まった後に、コンビニに行って買い物をしたりしているんです。だったら、コンビニで働いてはどうかと提案していました。「コンビニまでは行けるんですよね。夜でもいいから、買い物に来ていた時間をアルバイトにしませんか?」と言うことで、一つの解決策として示していけます。

 ――これからの作品でも、テーマやスタンスは変わりませんか?

 そうですね。作家としては、問題提起することしかできませんから。解決しなければならない問題が山ほどあって、「こんな時、あなたはどうする?」と。それによって、類似事件が起きないようにする。ゼロにするのは無理かもしれないけど、できるだけ起きないようにする。声をあげていくことによって、作品を手にしてくれる人が出てくるかもしれません。作品を読んで、少しでも自分なりの解決の糸口を見つけてもらえればと思います。