苦痛を感じ、生活に支障が出ていても、「性」のことは言い出しづらく、周囲も気づきにくいものです。たとえ意を決して何とかしたいと思っても、趣味嗜好の問題で片付けられ、治療できる医療機関もほとんどないのが現状です。ICD-11に疾病として明記されたことで、治療できる医療機関が増えることが期待されます。

 痴漢などのパラフィリア障害の治療に関しては、「犯罪に対して必要なのは刑罰であって、治療ではない」といった声がよく聞かれます。犯罪には刑罰が必要なことは当然です。ただ、それだけでは再犯は防げません。それは性依存などの依存症は、衝動をコントロールする脳機能の異常による病気だからです。脳の病気は本人が気持ちを改めただけでは治りません。再犯を防ぐには、刑罰に加えて、科学的な根拠のある治療が必要なのです。

 性依存の背景には、こうした脳機能の異常のほかに、「落ち込みやすさ、ネガティブな感情に対する脆弱(ぜいじゃく)性」があると考えられています。一般的には、ゆっくりお風呂に入って十分に睡眠をとれば回復できる程度の「嫌なこと」でも、大きなストレスに感じ、そのはけ口を繰り返し性的な行動に求めてしまうわけです。

 このストレスを感じたときの対処法が限られているのも特徴です。ストレス解消のためにスポーツで汗を流す、友人に会って話をする、趣味のサークルに参加する……といった多様さがなく、ストレスを感じたら風俗店に行く、アダルトサイトを見る、さらには痴漢をするといった性的な行動に限定されているわけです。

 ストレスが性的な衝動や行動に結びついてしまう人の多くには、もともと性への強い思い込みがみられます。さらには女性を性の対象としかみることができない、欲望を満たすためのモノのようにみてしまうゆがんだ考え方、いわば「認知のゆがみ」があります。性依存は、以上のようなさまざまな要因が組み合わさって発症すると考えられます。

(文/近藤昭彦)

暮らしとモノ班 for promotion
ヒッピー、ディスコ、パンク…70年代ファションのリバイバル熱が冷めない今