若林健史(わかばやし・けんじ) 歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演
若林健史(わかばやし・けんじ) 歯科医師。医療法人社団真健会(若林歯科医院、オーラルケアクリニック青山)理事長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演
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※写真はイメージです(写真/getty images)
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 最近、「歯を抜かない、削らない治療」を謳う歯科医院が増えているようです。患者側からは魅力的に映りますが、果たして歯周病やむし歯の歯を100%、抜かずに、削らずに治療ができるものでしょうか? また、どんな歯も抜かない、削らないほうがいいのでしょうか? テレビなどでおなじみの歯周病専門医、若林健史歯科医師に疑問をぶつけてみました。好評発売中の著書『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』からお届けします。

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 これまで何度もお話ししてきたように、「本物の歯のような噛み心地」といわれるインプラントでさえ、違和感があるものです。天然の歯よりプラークがつきやすい点も、使ってみて初めてわかる天然歯との違いです。なんでもおいしく食べ続けるためには歯は抜かない、削らないほうがいい、というのは鉄則です。

 ただし中には抜いたり、削ったりしたほうがいい場合もあります。

 ここでは私の専門である歯周病を例に「歯を抜くか、抜かないか」の見極めについて、よくあるケースをお話ししたいと思います。

 まず一つ目のケースです。歯周病は進行すると歯の土台の歯槽骨が破壊されて、少しずつなくなっていきます。このため、上に乗っている歯が不安定になり、少しずつ揺れるようになっていきます。

 この揺れのために、噛むことができなくなり、揺れる歯を避け、別の歯で食べ物を噛む癖がつくことが問題になります。特定の歯や顎の一部に過度な力がかかるようになり、噛み合わせがずれたり、顎関節症を引き起こして顎が痛くなったりすることがあるのです。このような場合は揺れている歯の一部を削って噛み合わせの調整をすることがありますが、場合によっては無理をして歯を残すのではなく、抜歯したほうが患者さんにとってメリットがあることもあります。

 二つ目は、歯周病になっている歯の歯槽骨だけでなく、隣の健康な歯の歯槽骨までなくなり始めている場合です。

 1本だけ歯周病が悪化している場合、このようなことが起こりやすいことがわかっています。中でも顎に対して歯槽骨が垂直方向に深く欠損しているタイプは、隣の歯を巻き込むリスクが高いことがわかっており、X線写真で骨の状況を見ながら、隣の歯がダメになる前に抜歯をしたほうがいいといえます。

 一方、歯が揺れていてもこうした問題がなく、患者さん自身も「噛めていて不自由がない」と感じている場合は抜きません。きちんとメインテナンスに来ていただくことができれば病状は大きく進行しないからです。

 また、揺れだけが問題になっている場合は、歯周病と隣の歯を矯正で使うワイヤーなどで固定する「暫間(ざんかん)固定」という治療法もあります。骨折と同じで固定をして安静にしていると完全には戻らないものの、骨が再生し、歯が安定します。

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複数の歯科医師に問い合わせることが大事