ただ、もちろん、佐久間氏は単に企画自体の目新しさだけで抜擢されたわけではない。そのトーク力を十分認めているからこそ、ニッポン放送側も起用に踏み切ったのだろう。

 ラジオで1人で話すというのは簡単なことではない。プロの芸人やタレントでも尻込みするような難しいことだ。だが、佐久間氏は2015年に放送された単発番組でもそれを堂々とやり切っていた。

 佐久間氏がラジオで堂々と話せる理由の1つは、彼自身が熱烈なラジオ好きだからだろう。佐久間氏は福島県で育ち、テレビやラジオを通じて東京の最先端のカルチャーに触れて、それに憧れを抱いてきた。現在でもラジオを聴き続けていて、そこからテレビの企画の着想を得ることもあるという。

 ラジオ好きの佐久間氏は、ラジオの独特のノリというものをよく理解している。ラジオの中でも深夜ラジオは特に、ラジオ愛のある熱心なリスナーが多い。そういう人たちにとって、ラジオファンである佐久間氏は「自分たちの味方」というふうに感じられるのではないか。そのような形で、ラジオ愛のあるDJはリスナーからも愛されることが多い。

 また、佐久間氏には仕事を通じて芸人やタレントとのつながりもある。彼らのエピソードを話したり、彼らをゲストとして番組に招いて話をすることもできる。その点でも番組がいろいろな方向に展開することが期待できるのだ。

 さらに、佐久間氏はテレビ、ラジオだけではなく、映画、音楽、漫画などのエンタメ全般の知識も豊富で、話せることがたくさんある。ラジオは情報密度の濃いメディアなので、語るべきことを多く持っている人が重宝される。このように考えると、佐久間氏ほど深夜ラジオのDJにふさわしい存在はいない、ということが分かる。彼の起用は決して奇をてらった試みではないのだ。

 番組はすでに第2回まで放送されていて、順調なすべり出しを見せている。リスナーからのメールでイジられたりしながらも、軽快なトークを展開している。聴いていて印象に残るのは、佐久間氏がとにかく楽しそうに話をしていることだ。学生時代から『オールナイトニッポン』のリスナーだった彼にとって、その番組を自分がやるというのは夢のようなことなのだという。その新鮮な感動と興奮が語り口からも伝わってくる。誤解を恐れずに言うなら、あの『ゴッドタン』の佐久間プロデューサーというよりも、ラジオ好きの陽気なサラリーマンのおじさん、という感じだ。だがそこがいい。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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