海外のドラッグカルテルなどを取材する犯罪ジャーナリスト・丸山ゴンザレス氏によると、日本におけるコカイン1グラムの末端価格は、統一市場が存在しないため幅があるが、1万5000円から2万円程度であることが多い。コカインの原材料となるコカの葉が育つのは主にコロンビアやペルーなどの南米の国々。地理条件は、ブラックマーケットにも作用する。南米と陸続きである米国では、運搬コストが抑えられ、自ずと価格も低くなるという。

 だが、それ以上に勉強目的の薬物使用に拍車がかかる理由は、学生の多くがきわめて切実に、より良い成績をとり、より良い給料を支払う企業に就職する必要に迫られているためだ。

 米連邦準備理事会(FRB)によると、2018年の第2四半期末までに、米国で借りられている学生ローンの総額は未曾有の約169兆円に達した。大学生の69%が学生ローンを組んでおり、平均負債額は約2万9800ドル(約332万円)。10万ドル(約1100万円)以上の負債を抱える者は約200万人、20万ドル(約2200万円)以上の負債を抱える者は約50万人存在し、彼らは大学卒業とともにその返済に奔走しなければならない。

 米国において、大学での成績と卒業後の収入は、ほとんどの場合比例する。だからこそ米国の大学生は死に物狂いで勉強するし、その効率を上げるため、薬物に手を出す者も少なくないのだ。事実、ダニエルにも約400万円の借金があった。

 勉強目的の薬物乱用と、学生の負債の増大は英国でも起きており、同国出身のジャーナリスト、キャロル・キャッドウォラダー氏は英ガーディアン紙にこう書いている。「(多大な負債を抱えるなかで)生産性と集中力、そして将来的な成績を約束してくれる薬を差し出されたら、それが魅力的に映るのは不思議なことではない」。

 しかし、いかに状況が過酷であったとしても、違法薬物の使用が正当化される理由にはならない。法的・倫理的な問題もある。だがそれ以上に、生命の安否に関わる問題であるためだ。

■コカインの危険性

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