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さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第68回はアメリカ、エル・パソのグレイハウンドバスターミナルから。
【客の大半がここからはメキシコ系になる、エル・パソのバスターミナル】
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アメリカのエル・パソ。ダウンタウンにあるグレイハウンドのバスターミナルからメキシコ国境に向かう道。そこを僕はエル・パソ商店街と勝手に呼んでいる。
道はサウス・エル・パソ・ストリートという。道の両側には雑多な商店が続いている。
アメリカというと、郊外の巨大なショッピングモールをイメージする人も多い。が、北部の大きな都市は違う。しっかりとした商店街がある。コーヒーショップやレストラン、テイクアウトのサンドイッチ店や携帯電話の店が並んでいる。しかもそれぞれの店が、日本人の感覚からすると「いけている」外観だ。
サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴ、シアトル……。日本人に人気のある街は、どこもシックでおしゃれな商店街をもっている。冬はかなり冷え込むということもあるのだろうか。厚みのあるドアのデザインがまたいい。
しかし南部は違う。テキサス州のエル・パソなどはその典型。乾燥地帯に背の高いビルが林立する味気ない街だ。エル・パソ商店街はそのなかにある。
感じがいい街かというと大違いだ。開け放たれた店の入り口。そこに並ぶのは、安そうな靴、子供向けのおもちゃ、派手な下着……。安そうなタコス屋も多い。どう見ても雑多。安さを前面に出す。街全体に品がないのだ。
なぜかといえば、ここはメキシコ人向けの商店街なのだ。
エル・パソの南には、メキシコのシルダード・ファレスがある。境界はリオ・グランデ川だが、このあたりはコンクリートの護岸が続く運河のような景観で、それも実に味気ない。シウダード・ファレスに住む人のなかには、エル・パソで働いている人も多い。給料が出た日、奥さんに派手な下着をプレゼント……。そんな需要に支えられている。