この発言に山谷氏は、机を叩いて激昂してこう言い放った。
山谷氏「それほど不信感を持つなら君が日本語を学べばいい」
熱くなる2人に職員の一人が仲裁に入る。
「現場は緊迫している状況だから、冷静に議論をして適切な経営判断を」
* * *
KAPは、国内初となる関西国際空港と大阪空港(兵庫県伊丹市)の民営化で運営権を獲得し、2016年4月に事業を開始した。オリックスとフランスの空港運営大手バンシの子会社「バンシ・エアポート」が40%ずつ資して経営されている。ムノント副社長はバンシ、山谷社長はオリックス出身の幹部だ。
ただ、KAPは表向きは一つの会社ではあっても、空港事業を始めるまでは歴史も文化も異なるまったく別の組織。訪日外国人の増加の追い風もあり黒字化を達成した一方、「利益優先のKAPのやり方が嫌になったベテラン社員が次々に辞めて、現場の力が落ちた」(関係者)との声もある。それを白日の下にさらしたのが、台風21号だった。平時はうまくやっているように見せていても、いざ有事になると本性が出る。災害発生時点から両社では対応方針の違いで意見が何度も食い違い、そのたびに現場は大混乱に陥った。
文書でも、その内実の描写に力点が置かれている。
災害が発生した9月4日には、KAPの社内会議で国への情報共有やプレス発表をすべきとの提案があがるも、ムノント副社長が「民間企業であり国のことは気にする必要はない。プレス発表のタイミングや内容は当社独自の判断で行うべき」と主張。KAPから国に何の報告もなされなかった。同日17時にプレス発表するも、被害状況の要点を淡々と説明するのみでお詫びや今後の見通しもなし。これに旅客や航空会社を含む空港関係者が激しく反発した。
混乱に拍車をかけたのは、翌5日の動きだ。
空港内に取り残された旅客に対して何の情報提供もなく、クレームが増加。空港外への脱出計画がどうなっているのか、いつ実施されるのか、そもそもKAPがそれを検討しているかどうかもすらわからない状況だった。現場スタッフは会社から説明がないので問い合わせを受けても対応できず、疲労困憊に。<(職員は>明確な方針や情報の伝達や指示がないことからひたすら謝りたおすのみ>だったと書かれている。情報不足からデマも流れた。