三平 だからこそ弁護士が介入すると威力があるんです(笑)。

岩崎 でも、実際に相手に弁護士が立つと手強くなりますよ。落とし所を考えるのが難しくなります。引用の解釈について争ってきたり、作戦の一貫として長期化されたり……。相手がなにか主張してきたら、こちらも反論しなくてはならず、その内容を考えるのも大変で。過去に引用の解釈について相手と争ったことがあります。デートスポットを紹介する記事で夜景の写真を無断使用され、「これは報道目的だ」ってむちゃくちゃな主張をされたんですけど(苦笑)。

三平 裁判の仕組み上、一方が疑問点を挙げてきたら、もう一方は反証しなくてはなりません。裁判官からも「相手からこう言われているから反証してくれない? 両方見て判断するから」って言われますので。デートスポット紹介が「報道目的」だなんて聞くと、「そんなわけがない」と笑われそうですけど、裁判では「この場合はどうなのか」と一つひとつ評価していくので、100%ないとは言い切れない。だからこそ弁護士としては、半分笑っちゃうような内容であったとしても、それなりの理論を立てて主張せざるを得ないこともあります。

岩崎 こちらが反論しなければ、相手の主張がそのまま認められることもありますからね。こうして真面目に反論しあっていると長期化するわけです。だから、本人訴訟でも、僕はなるべく和解に持ち込んでいます。和解のほうが相手も支払いに応じる可能性が高いからです。一方、引用の解釈など、判決を出して判例を残しておきたいときもあるのですが、今度は裁判官とのやり取りが大変になるんです。判決を望んでも、とにかく和解をすすめてきますから。

三平 裁判所は和解で済むならそのほうがよく、判決を出すのを嫌がる傾向にあります。裁判官にとっては判決文を書くのは大変ですし、和解であろうと判決であろうと、一つの裁判を処理したことには変わりありませんから。

佐々木 裁判官も組織人なわけだ(笑)。それなら和解をすすめて処理件数を増やしたほうがいいってことか。

三平 裁判で損をしないという考え方でいけば、判決では懲罰的な意味を込めて賠償額を増やすことはありませんが、和解交渉の過程であれば、和解金額に幅を持たせることができます。戦略的に和解を目指すほうが金銭的なメリットも大きいわけです。

岩崎 裁判で引用の解釈や著作物性、創作性などを争うのは本当に大変。明らかな著作権侵害さえ立証できていれば、弁護士を立てなくても、当事者間の示談交渉で解決することも多い。無断使用者の間で、「裁判よりも示談を成立させて和解金を振り込んだほうが早い」という認識が広まればやりやすくなるんですけど。でも、和解で気をつけなきゃいけないこともあるんです。裁判なら堂々と「勝ちました」と公表できますが、和解の場合はそういうわけにもいきません。お互いの守秘義務を書面で交わしていなくても、そのあたりは気をつけています。

三平 和解時に守秘条項を交わすことは多いのですか?

岩崎 僕の場合はほとんどありません。ただ、相手が大企業の場合、示談交渉の過程で相手に求められるケースはあります。たまに、一方的にこちらにだけ守秘義務を求めてくるひどい場合もあるんです。また、和解時に「今後一切の債権債務を放棄する」という一文を盛り込まれていることもありました。

三平 「清算条項」ですね。和解によって認められた請求権以外の一切の請求権が、お互いに生じないことを確認する文言のことです。

岩崎 和解のあと、もし相手が別の写真を無断使用していたことが発覚しても、今後一切請求できないことになってしまうので、注意が必要です。「本件に関して」という但し書きがつくのであれば僕も同意しますが、限定がないものは拒否します。早く和解したいという気持ちによる焦りから、一方的な守秘義務や清算条項を見落とさないようにしなくてはなりません。

有賀 このケースに限らず、契約書の類はよく読んで納得した上でサインしなくてはなりませんからね。

三平 ところで、岩崎さんは無断使用者とメールで交渉する際、「弁護士に相談する」と警告しているんですか?

岩崎 交渉する相手によっては書きます。でも「弁護士に相談する」だと弱くて、「顧問弁護士に引き継ぎます」と書くほうが、パンチが利きます(笑)。実際、僕は無視されたけど、弁護士からメールを送っただけで解決したことがあります。

三平 岩崎さんは実績があるので、「応じない場合はこういうことになります」と過去の仮処分や裁判実績をつけるのもおすすめです。客観的な事実を伝えるように見せかけて、「この人を敵に回すとここまでやられる」と二重のプレッシャーを与えるんです。

佐々木 なんかマニアックな闘い方指南みたいになりましたが……(笑)。たとえ面倒であっても、無断使用者に異議を申し立てることが、相手の著作権意識を高めることにつながります。一人でも多くの人たちが闘い続けないといけないんですよね。

【座談会メンバー】
有賀正博
写真の著作権侵害との闘い方をイチからつづったブログが話題に。

岩崎拓哉
著作権侵害の本人訴訟経験あり。大学・大学院で教鞭を執った実績も。

三平聡史
みずほ中央法律事務所・代表弁護士。本シリーズでもおなじみ。

佐々木広人
増刊『写真好きのための法律&マナー』担当編集者でもある。肖像権・著作権問題の講演多数。

(文/吉川明子)

※「アサヒカメラ」2019年1月号から

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