夫はごく普通の男性。結婚前に一度、「私の姓の野村にしない?」と言ってみたが、「え?なんで???」と目が点になっていた。まるで何も考えてはいない。「女が姓を変えるのが当たり前だ」と思っている。地元では当然、「野村夏美」で名が通っていただけに、姓が変わることへの抵抗感は強かった。「野村夏美」でない私っていったいなんなのだろう。いろんな経験をしてきたと思ったのに、結婚でリセットしてしまう。私という人間がゼロになってしまったという想いが頭のなかをぐるぐると回った。
夫は「なんでこだわるの?」とあっけらかんとしている。夏美さんは、「姓を変えないほうは良いよね。変えさせられる身になれば、こだわるんじゃないの?同じ姓を強要されるのは、個人が認められていないとしか思えない。その人間がなかったことにされるようだ。一度消去され、新規の人格になるイメージ。山中夏美なんて名前、まるでなじめない」と、怒りを覚えた。
現在、民法により夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗らなければならず、選択的夫婦別姓は実現していない。ただ、若い世代には民法改正を望む声が大きくなっている。
内閣府の「家族の法制に関する世論調査」(2017年度)では、「婚姻による名字(姓)の変更に対する意識」について尋ねており、「名字(姓)が変わったことに違和感を持つと思う」が22.7%、「今までの自分が失われてしまったような感じを持つと思う」が8.6%だった。若い女性の層をみると、「違和感を持つ」と思うのは18~29歳で32.3%、20~39歳で27.3%。40~49歳で23.2%と平均を上回る。「自分が失われる」も、30~59歳の間で12%台あった。
また、同調査で「選択的夫婦別姓」について、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の姓を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」と答えた割合は男女とも平均42.5%だった。内訳を見ると、男性の30~39歳(50.9%)、女性の18~29歳(52.4%)、30~39歳(54.1%)、40~49歳(52.1%)が過半数を超えているにもかかわらず、いまだ、選択的夫婦別姓を実現する民法改正は行われていない。