別の側面でモバイルにこれから起きることをみていきましょう。現在、米国と中国は熾烈な貿易戦争の最中です。しかしその裏には、次世代通信規格の覇権争いがありました。
貿易戦争で米国は、中国の米国に対する貿易黒字を問題視し、関税をかけるなどの措置を続けています。また知的財産の保護についても非常に神経を尖らせた対応を行っています。それらと温度差を感じるのが、中国ファーウェイやZTEといった企業の締め出しです。
米国は、中国製の通信機器について、セキュリティ上の問題があるとして、米国政府機関での調達を行わないだけでなく、同盟国に対しても同様に調達から外すよう求めました。また企業に対しては、中国製の通信機器を採用したり、組み込んでいる製品を扱っている場合、米国政府機関との取引をしないことにしました。
これはトランプ政権の貿易戦争以前、オバマ政権時代から始まっている中国通信企業の締め出しの政策であり、貿易戦争とたまたま同期したに過ぎない、とみています。
現在世界中で使われているのは、最高速度1Gbpsに到達する4G LTEです。米国では2011年でした。それまで米国のモバイル通信は国土の広さから、その立ち上がりが遅れていましたが、4G LTEは急速に投資が進み、結果として高速モバイル通信を前提としたスマートフォンのアプリビジネスを支えるインフラとなりました。通信発展の主導権が、ビジネスを育成した形です。
より高速通信を実現する「5G」(第5世代)では遠隔医療や自動運転など、より高度な通信を用いた技術が期待されており、4G LTEで実現したビジネスの覇権を再現したいとの思惑が見えます。
そのため、抵抗勢力となり得る中国から、通信の覇権だけでなく、知的財産の保護によってビジネスの前提となるアイディアそのものの流出を防ごうとしているのです。
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平成のモバイル史、ケータイ世代の視点、そしてスマホ普及を米国から取材してきた視点でふりかえってきました。
繰り返しになりますが、スマートフォンは既に、我々の生活の「前提」となっており、特に米国の都市ではより強く意識されています。米国での2011年からの7年間の生活は、スマートフォンによって社会がみるみる変化していく様子であり、ケータイ世代からすると興奮にも値するような出来事だった、とふりかえることができます。米国では引き続き、モバイルによる変革という成功体験を重ねていこうとしています。
その一方で、日本で生み出されたケータイ文化やビジネスモデルは、米国を通じて世界で拡張され、また進化し続けています。またモバイルが前提となる人々のライフスタイルは、日本に依然として10年程度のアドバンテージがあることも分かってきました。
絵文字のように世界共通の「当たり前」をモバイル文化に産み落としたり、あるいは次世代のプラットホームになり得る存在が日本から登場することに、これからも強く期待しています。(松村太郎)