暴力の被害者から加害者となった貴ノ岩 (c)朝日新聞社
暴力の被害者から加害者となった貴ノ岩 (c)朝日新聞社

 貴ノ岩による付け人への暴行事件で激震が走った相撲界。貴乃花親方が退職し、消滅した貴乃花部屋から千賀ノ浦部屋に移籍したばかりの貴景勝が劇的な初優勝を遂げた直後、貴景勝の兄弟子で、日馬富士による暴行事件の被害者となった貴ノ岩が今度は加害者となった。この事件の衝撃は大きく、相撲界の大きな課題である暴力根絶の道のりの険しさが浮き彫りとなった。その一方で、土俵の上では「世代交代」という大きな変動の時が近づきつつある。

 ここ10年近く、土俵の主役は「白鵬世代」の力士だった。優勝41回と前人未到の高みを行く絶対王者・白鵬を中心に、日馬富士、鶴竜、稀勢の里、琴欧洲、把瑠都、琴奨菊、豪栄道など。モンゴル出身、ヨーロッパ出身、中卒たたき上げ、高卒など多彩な背景を持つ力士たちが、さまざまなライバル関係の火花を散らし、刺激し合いながら、朝青龍ら上の世代の力士たちに挑み、乗り越え、数々の名勝負を繰り広げてきた。

 2018年は、そんな白鵬世代から新しい世代へと主役が移り変わる兆しが感じられる1年だった。年6場所のうち3場所で初優勝の力士が誕生。初場所を制した栃ノ心は30歳の白鵬世代だが、名古屋場所優勝の関脇・御嶽海は25歳、九州場所を制した小結・貴景勝は22歳(年齢はいずれも優勝時)と若い。世代交代の予感を高めるのは、優勝した2人とともに、同世代のライバルたちも台頭してきたことだ。

 名古屋場所では、御嶽海と同学年で学生時代のライバルの北勝富士、1学年下の豊山と朝乃山が優勝争いに加わり、千秋楽には豊山が御嶽海を大熱戦の末に破った。九州場所では、貴景勝と同学年で少年時代から競い合ってきた阿武咲が追いすがり、2人で三賞を分け合った。さらに、彼らより年齢が少し上の大関・高安も意地を見せ、御嶽海と貴景勝に優勝した場所でいずれも土をつけている。彼らが賜杯をめぐって激しく争う姿は、近い将来の土俵を先取りしているように思われた。

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まだまだ開きがある白鵬世代と新世代との差