女子では限られた選手しか跳べないトリプルアクセルについて、紀平は「代名詞になるくらいしっかり跳んでいかないといけない」と語っている。しかし、大技であるだけに毎試合成功するわけではなく、失敗した時のダメージも大きいはずだが、その際の対処は16歳とは思えないほど落ち着いている。今季から演技の完成度を求める方向で改正されたルールの下で、リスクを伴う大技に挑んでいくために必要な心の保ち方を身につけているのが強みだろう。
紀平は昨季出場したジュニアグランプリファイナルでは4位となり、ロシア勢の表彰台独占を許す結果となった。しかし、現在、勢いの点では世界の女子の中でも有数の存在であり、シニアのカテゴリーで頂点をうかがえる可能性を感じさせる。五輪を制しても緩む気配すら見えないディフェンディングチャンピオンのザギトワが今季のファイナルでも優勝候補最有力であるのは間違いない。ただ、すべての面で優れる紀平が大技を決めれば、ザギトワに迫れる数少ない存在となるはずだ。(文・沢田聡子)
●プロフィール
沢田聡子
1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。シンクロナイズドスイミング、アイスホッケー、フィギュアスケート、ヨガ等を取材して雑誌やウェブに寄稿している。「SATOKO’s arena」